先日、ある製造業の社長から「なぜうちが税務調査に入られたんだろう」という話を聞きました。売上が急増したわけでもなく、特別なことをした覚えもない。それでも国税局から調査の通知が届いたというんです。
税務調査を受けるのは、全法人の約1.3%です。少ない数字に見えますが、日本には約300万社の法人があります。毎年3〜4万社が調査を受けている計算で、その1.3%に選ばれるのにはちゃんと理由があります。
税務署には会社を選ぶ「基準」があります。今回は、その選定基準の中でも特に重要な3つの条件をお伝えします。
条件① 利益率が同業他社より著しく低い
税務署は各業種の平均的な利益率データを持っています。あなたの会社の数字が、同業他社の平均から大きく外れていると「なぜ低いのか?」と疑問を持たれます。
たとえば、飲食業の業界平均利益率が4〜6%のところ、あなたの会社だけが毎年1%以下だとします。経費のかかり方に特別な事情があるのか、それとも費用の計上に問題があるのか——税務署は気にします。
正当な理由があれば問題ありません。ただし、その理由が申告書や決算書から読み取れることが重要です。「言われてみれば設備投資の時期だった」では遅く、書類として証明できる状態にしておく必要があります。
条件② 消費税の課税売上が毎年「1,000万円前後」で止まっている
消費税の課税事業者になるかどうかの基準は、前々年の課税売上が1,000万円を超えるかどうかです。この閾値は、多くの社長が知っています。
ところが、知っているからこそ「意図的にコントロールしようとする」ケースが出てきます。毎年950万円、980万円、あるいは1,020万円あたりで推移している会社は、「売上を意図的に抑えているのでは」と見られます。
今の税務署はAIや統計解析を活用して、過去数年のデータを横断的に分析しています。不自然な数字の推移はフラグが立ちやすく、「毎年ちょうど1,000万円以下」は最もシンプルな異常値の一つです。
条件③ 3期以上の赤字なのに、なぜか事業を続けている
通常、赤字が続けば資金が底をついて廃業します。それでも事業を続けられているとしたら、外部から見ると「どこかから資金が供給されている」か「実は黒字なのに申告上は赤字にしている」のどちらかに映ります。
後者の疑いを持たれると、調査の優先度が上がります。
設備投資の減価償却が重なっている、役員借入で運転資金を賄っているなど、合理的な理由がある場合は問題ありません。重要なのは、その理由が書類から見えること。説明がつかない状態のまま放置しておくと、リスクだけが積み上がっていきます。
税務署の「選び方」は年々高度化している
かつては調査官の経験や勘に頼る部分もありましたが、今は違います。国税庁はビッグデータとAIを活用して、全法人のデータを網羅的に分析しています。
異常値を持つ法人が自動的にリストアップされ、調査官がその中から優先度の高いものを選ぶという仕組みです。「うちは規模が小さいから大丈夫」という感覚は、率直に言って通用しなくなりつつあります。
心当たりがあるなら、今期中に動いてほしい
この3つの条件は、不正の証拠ではありません。正当な理由がある場合がほとんどです。
重要なのは「正当な理由があっても、それが書類から証明できるか」という点です。税務調査は「疑われてから説明する」より「疑われない状態を作る」ほうが、心理的にも時間的にもずっと楽です。
3つのうち1つでも心当たりがあるなら、今期の決算が確定する前に顧問税理士に相談してみてください。決算前であれば、数字の整理や説明資料の準備など、打てる手が残っています。「うちは大丈夫」と思っていても、第三者の目で一度確認してもらうことを強くおすすめします。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。