先日、知り合いの税理士からこんな話を聞きました。年商2億円の食品卸会社を経営する社長が、5年ぶりの税務調査を終えた直後、「まさかこんな結果になるとは思わなかった」と頭を抱えていたというのです。

何があったのか。計上していた経費のうち約300万円分——実に全体の3割——が、まとめて「否認」されました。

経費が否認されると何が起きるか

「認められなかった分を払い直すだけ」では済まないのが、税務調査の怖さです。

否認された経費は課税対象の利益に算入されるため、その分の法人税・住民税・事業税がまとめて追加請求されます。さらに、仮装・隠蔽があったと判断されると「重加算税」が35%上乗せされます。この社長のケースでは、最終的な追徴総額が150万円を超えました。

「知らなかった」「みんなやっていると思っていた」は、一切通用しません。これが現実です。

実際に否認された3つの支出

問題になったのは、具体的には次の3点でした。

ゴルフ代を「会議費」として処理していた

ゴルフ接待そのものを否定されたわけではありません。問題は科目の使い方でした。「会議費」として計上するには、会議の目的・参加者・議題を示すエビデンスが必要です。スコアカードや誘いのメールだけでは要件を満たせず、接待ゴルフは基本的に「交際費」で処理するのが原則です。

家族旅行を「研修費」で申告していた

調査官が最初に目をつけたのがここでした。家族全員で訪れたリゾートホテルへの旅行が研修費として計上されていましたが、研修の目的・カリキュラム・業務との関連性を示す書類が何も残っていませんでした。研修費として認めてもらうには、事前の研修計画書と事後の報告書がセットで必要です。

記録のない飲食費を「交際費」に計上していた

飲食費の交際費計上には、「いつ・どこで・誰と・何の目的で」という記録が不可欠です。領収書があっても、相手先の会社名・担当者名・商談内容の記録がなければ、私的な食事との区別がつかないと判断されてしまいます。帳簿には領収書があるのに、それを補完する記録が何もなかったのです。

否認の理由はたった一つ

3つのケースを貫いている否認理由は、すべて同じです。「事業目的の証明ができない」——ただこれだけです。

税法上の経費として認められるためには、その支出が事業に直接関連していることを、客観的な証拠で示さなければなりません。「事業のためにやった」という経営者本人の主観は、証明にはなりません。記録・書類・関係者の証言がそろって、初めて認められます。

裏を返せば、適切な記録さえあれば守れた経費がほとんどだった、ということでもあります。

今日から始める3つの習慣

リスクが高い3カテゴリに絞って対策をお伝えします。

飲食費は、支払いのたびにスマートフォンのメモアプリで「相手先・目的・人数」を記録する習慣をつけるだけで、大きく状況が変わります。たった30秒の作業です。

旅費・研修費は、旅行や研修の前に「計画書」を一枚作り、終了後に「報告書」を残してください。形式は問いません。Word一ページでも構いません。「事前に計画した業務活動である」という証拠が残るかどうかが分かれ目です。

ゴルフ接待は、科目を「交際費」で統一し、同席者と商談内容をメモしておくだけで対応できます。会議費への計上は、よほど明確な会議でない限り避けたほうが無難です。

5年に一度の税務調査で150万円超の追徴を受けてから後悔しても、取り戻せるものは何もありません。今の帳簿の記録方法を、一度税理士と一緒に棚卸ししておくことを強くおすすめします。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。