先日、顧問先の社長からこんな電話がかかってきました。

「税務調査が終わったんですが、経費の一部を否認されまして……合計で700万円ほど」

その社長は年商約2.5億円の建設業。売上は順調なのに、経費が否認されると課税所得がその分だけ上乗せされ、思わぬ追徴課税が発生します。「なぜ否認されたのかを事前に知っていれば、防げたはずなんです」——その一言が、今日この記事を書くきっかけになりました。

経費否認は「悪意がなくても」起きる

税務調査で否認される経費は、必ずしも意図的な脱税とは限りません。「ちゃんとした経費なのに、記録が不十分だった」「そんな規定があるとは知らなかった」というケースが、実はかなり多いんです。

問題は、知らないまま毎年同じパターンを繰り返してしまうこと。税務調査は原則として過去3年分、場合によっては5年分まで遡って調べられます。1つの問題が何年分もの損失につながることも、珍しくありません。

①飲食費——「誰と何のため」がないと終わり

取引先とのランチ、スタッフとの打ち上げ、クライアントとの接待。どれも経費になり得ますが、一番シンプルな落とし穴が「事業目的の記録がない」ことです。

レシートも領収書もあるのに、「なぜこの飲食が事業に必要だったのか」が書かれていない。そうなると税務署は「プライベートな食事では?」と疑ってきます。

対策は単純です。領収書の裏に「〇〇株式会社△△部長との打ち合わせ。新規案件の打診を受けた」と2〜3行書くだけ。これだけで否認リスクは大幅に下がります。

②家族への給与——実態がないと架空給与扱いに

奥様やご両親を役員・従業員として会社に入れ、給与を払うのは合法の節税策です。ただ、実態がないと否認されます。

「名前だけ入れていて、実際は何もしていない」「月給50万円を払っているが、仕事の内容が曖昧」——こういったケースは、税務調査のターゲットになりやすいです。実態を証明するには、業務日報やタイムカード、担当業務の説明など、何らかの証跡が必要です。「仕事はしています」と口で言うだけでは、調査官は納得しません。

③出張費——旅行との混在は黒に近いグレー

週末を挟んで海外出張に行き、土日は観光……その旅費を全額会社負担にしている。これは典型的な「私的旅行との混在」と見られます。平日分は認められても、観光に当たる部分は否認という判断が下りやすい。

出張規程を整備し、業務日程を明確に記録することが大切です。出張報告書に「何のために誰に会ったか」を残しておけば、万が一の調査でも説明できます。旅費規程がまだない会社は、今期中に整備しておくのをおすすめします。

④車の経費——100%計上は逆に怪しまれる

社長専用の車を会社資産として購入し、燃料代も保険料も全額経費にする。節税策としてよく使われますが、「プライベートでは一切使いません」は、現実問題として信じてもらいにくい。

「100%事業用」と主張するほど、証拠の準備が必要です。業務日報での走行ログ、目的地と訪問先の記録——こうした実績がなければ、プライベート利用の混在を疑われます。100%計上するなら、それを裏付ける記録をセットで用意しておくことが前提です。

⑤交際費——5項目が揃っていないと全額アウト

接待交際費として認められるには、次の5項目を記録に残す必要があります。

  • 飲食等のあった年月日
  • 参加した取引先の氏名・会社名
  • 参加した自社の従業員の氏名
  • 飲食等の目的
  • 飲食店名と支払金額

この5項目が揃っていないと、全額否認される可能性があります。「領収書は取ってあるのに、参加者を書いていなかった」——それだけで否認になることもある。細かく感じるかもしれませんが、これが交際費のルールです。

5つが重なると、経費の3割が消える

これらのパターンが複数重なっている会社では、税務調査後に経費の2〜3割が否認されるケースも珍しくありません。経費が否認されるということは、その分だけ利益が増え、追加で税金を払うことになります。調査から3年分遡られると、数百万円単位の追徴課税になることも十分あります。

今日からできることは「記録を残す」だけ

難しい節税策を考える前に、まず「記録」を習慣にしてください。飲食費なら参加者と目的、出張費なら業務の内容と日程、家族給与なら業務の実態、交際費なら5項目——どれも特別な知識は要りません。

まだ社内で経費精算のルールが曖昧なら、この機会に整備しておくのがおすすめです。「経費を使ったら、目的と参加者を書く」というルールを徹底するだけで、会社全体のリスクは大きく下がります。税務調査が来てから慌てるのではなく、今から準備しておきましょう。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。