先日、経営者仲間の集まりでこんな話を聞きました。

年商3億円の建設会社を経営する田中社長(仮名)のもとに、ある秋の朝、税務署から1本の電話が入りました。「調査にお伺いしたいのですが」——その瞬間から、田中社長の数週間はこれ以上ないほど憂鬱なものになったそうです。

調査官が席に着いて真っ先に開いたのは、経費の伝票でした。

指摘された3つの経費

調査が進むにつれ、3つの項目に静かにマーカーが引かれていきました。

① 家族との食事を接待費に計上(年間約60万円)

田中社長は奥さんや子どもと外食するたびに、「関係先との懇親費」として接待交際費に計上していました。確かに家族とのコミュニケーションは大切ですが、それは会社の業務とは別の話です。調査官は過去2〜3年分の領収書を丁寧にチェックし、「これは誰と食事されたんですか?」と静かに尋ねてきたそうです。

② 沖縄旅行を視察費として処理(30万円)

「沖縄の物件を視察するため」という名目で処理した旅費30万円。しかし宿泊先は高級リゾートホテルで、旅程には家族向けのアクティビティが含まれ、視察先の記録も残っていない。調査官が「視察の成果物はありますか?」と聞いたとき、田中社長は言葉に詰まったといいます。

③ 個人所有の車の修繕費を会社で負担(20万円)

田中社長が個人名義で所有している車の車検代・修繕費を、そのまま会社の経費として処理していました。「仕事でも使っているから」という感覚は理解できますが、個人名義の資産にかかる費用を法人が負担するには、それなりの根拠が必要です。

この3つの合計は110万円。決して大きな金額ではないように見えるかもしれません。

否認されると、実際いくら払うことになるのか

ここが多くの社長が見落としているポイントです。

経費110万円が否認されると、その分だけ利益が増えたとみなされます。法人税の実効税率を約23%とすると、追徴税額はざっくり25万円前後。しかしそれだけでは終わりません。

過少申告加算税(10%) が上乗せされます。さらに調査官が「意図的な隠蔽があった」と判断すれば、重加算税(35%) の適用もあり得ます。悪意があるかどうかはこちらの主観ではなく、調査官の判断次第です。「知らなかった」は通らないのです。

田中社長のケースでは、追徴税額と加算税を合わせて40万円超の支払いとなりました。節税のつもりが逆ザヤになる、典型的なパターンです。

なぜバレるのか

「少額だから大丈夫だろう」という感覚は危険です。調査官は過去の申告書の変動幅、業種ごとの経費比率の平均値、そして社長個人の行動パターンまである程度把握したうえで調査に来ます。

特に接待交際費と旅費交通費は「感情的な経費」になりがちです。実際に業務に関係しているのか、個人的な支出が混ざっているのか——境界線を曖昧にしたまま計上している会社は、どの業種でも少なくありません。

NG経費を防ぐ3つの基本原則

グレーゾーンを適切に処理するための基本はシンプルです。

  1. 業務関連性を証明できる記録を残す(誰と、何の目的で、という記録)
  2. 個人と法人の財布を明確に分ける(個人名義の資産費用は原則として法人経費にしない)
  3. 旅費や出張費は「旅費規程」を整備して一律基準で処理する

特に旅費規程は、一度作ってしまえば調査に対して非常に強い武器になります。「規程に基づいて処理しています」という一言で、調査官の追及がほぼ止まります。まだ旅費規程を整備していない会社は、今期中に対応しておくことをおすすめします。


田中社長はその後、税理士と二人三脚で経費計上のルールを整備し直しました。「あの調査があったからこそ、ちゃんと向き合えた」とおっしゃっていましたが、できれば調査が来る前に気づいてほしいところです。

税務調査は「ある日突然」やってきます。今の自分の経費計上に、自信を持って答えられますか?

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。