先日、年商1億円超の設計事務所を営む社長からこんな相談を受けました。「決算が終わったら、思った以上に税金を持っていかれてしまって……。法人化も考えているんですが、実際どのくらい違うんでしょう?」

ご自身でも薄々感じていたようですが、実際に試算してみると、その差は年間200万円近くにのぼっていました。

「知っているかどうか」で年200万の差がつく

所得が900万円前後の個人事業主を続けている社長は、今この瞬間も大きなコストを払い続けているかもしれません。所得税と住民税に加えて、国民健康保険料が重なってくる個人事業主の税負担は、同じ所得水準の法人オーナーと比べると、年200万円以上の差がつくことも珍しくないのです。

これが10年続けば、2,000万円の差になります。同じビジネスをしているのに、知っているか知らないかだけで——これが日本の税制の現実です。

法人化で使える「二段構造」

法人化した社長が活用しているのは、主に二つの仕組みです。

一つ目は「給与所得控除」です。法人を設立して自分に役員報酬を支払うと、その報酬は「給与所得」として扱われます。個人事業の所得にはない、給与所得控除という経費が自動で差し引かれるわけです。年収900万円で役員報酬を受け取る場合、この控除だけで195万円が課税対象から外れます。

二つ目は「法人税率の低さ」です。事業から出た利益をすべて自分の収入にする必要はなく、法人の中に残しておけます。所得800万円以下の中小法人の実効税率は約22%。個人の最高税率が55%(所得税45%+住民税10%)に届くことと比べれば、その差は歴然です。

この二つを組み合わせることで、「自分への報酬は適切な範囲で取りつつ、利益は法人に残して低税率で運用する」という構造が作れます。個人事業主には使えない、合法的な節税の王道です。

なぜ個人のまま続けてしまうのか

「手続きが面倒」「設立費用がかかる」「まだ利益が少ないから不要」——こういった理由で法人化を先送りにしている社長は少なくありません。

確かに、利益が小さいうちは法人維持コスト(均等割や社会保険の会社負担分など)が重荷になることもあります。ただし所得が700〜800万円を超えてくると、多くのケースで法人化のメリットがコストを上回り始めます。この境界線は、事業の構造や家族への給与があるかどうかによっても変わるため、一概には言えません。

だからこそ「自分の場合はどうなのか」を、感覚や口コミではなく、実際の数字で確認することが大切なのです。

「もう少し待ってから」が一番もったいない

法人化を迷っている社長に多いのが、「売上がもう少し伸びたら考えよう」というパターンです。しかしそれは、毎月少しずつ損をしながら、決断を先送りにしているだけかもしれません。

年200万円の差は、12か月で割ると月16万円以上です。今月も来月も、その差は静かに積み上がっています。

まずは今の顧問税理士、あるいは信頼できる税理士に「私の場合、法人化したらどれくらい節税できますか?」と聞いてみてください。試算自体はそれほど難しくありません。その一本の問い合わせが、年単位の損得を変えるきっかけになることもあります。

所得が700万円を超えてきたなら、今期中に一度だけでも試算を依頼してみることをおすすめします。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。