先日、あるフリーランスのデザイナーさんからこんな相談を受けました。
「独立して6年、ようやく年収700万円を超えたのに、なんでこんなにお金が残らないんでしょう」
確定申告のたびに税金の多さに驚き、国民健康保険料の通知が届くたびにため息をつく——そんな経験、ありませんか?
年収700万円でも「手元に残るのは500万円以下」
個人事業主として年収700万円を稼いでいる場合、税負担はどれくらいになるでしょうか。
所得税・住民税に加えて、個人事業主の国民健康保険料は「所得連動型」なので、収入が上がれば上がるほど保険料も増えていきます。これら3つを合わせると、年間200万円以上が手元から消えていくケースは珍しくありません。
つまり、頑張って700万円稼いでも、実際に使えるお金は500万円以下というのが個人事業主の現実です。稼げば稼ぐほど税率が上がる累進課税の構造が、じわじわと手取りを削っているのです。
法人化すると何が変わるのか
法人化を検討するとき、多くの人が最初に聞く言葉が「給与所得控除」です。
個人事業主は、売上から経費を引いた事業所得に対して税金がかかります。一方、法人で役員報酬を受け取ると、給与所得者と同じ扱いになり「給与所得控除」が適用されます。年収700万円の場合、約190万円もの控除が自動的に差し引かれます。個人事業主のときには使えなかった控除が、法人化した途端に使えるようになる——これが最大のメリットのひとつです。
さらに、法人と個人の二つの財布を使い分けることで「所得分散」が可能になります。役員報酬を適切な水準に設定し、法人にも利益を残すことで、累進課税の影響を抑えることができます。
冒頭のデザイナーさんも、税理士に相談してから法人化を決断。役員報酬と法人利益のバランスを調整した結果、年間の税負担が50〜70万円ほど軽くなりました。毎月に換算すると4〜6万円。これは決して小さな金額ではありません。
「でも社会保険料が増えるんじゃ?」という疑問
ここで必ず出てくるのが、社会保険の問題です。
法人化すると、国民健康保険・国民年金から「健康保険・厚生年金」へ切り替わります。厚生年金は保険料が高く感じますが、会社(=自分の法人)が半額を負担する仕組みです。将来受け取れる年金額も増えるため、単純に「損」とは言い切れません。
ただ、社会保険料の増加分を加味すると、節税効果が思ったほどでないケースもあります。法人化の判断は「税金だけ」で考えず、社会保険料も含めたトータルでシミュレーションすることが欠かせません。
法人化のタイミング、目安はどこ?
「いつ法人化すればいい?」という質問をよく受けます。一般的には年収500〜700万円が検討のスタートラインと言われていますが、金額だけが基準ではありません。
次のような状況に複数当てはまるなら、真剣に検討する時期に来ているかもしれません。
- 毎年の税負担が100万円を超えている
- 売上が安定していて、今後も増加が見込める
- 取引先から「法人口座に振り込みたい」と言われたことがある
- 将来的に人を雇うことを考えている
法人化には費用と手間もかかる
一方で、法人化はメリットだけではありません。設立費用(合同会社なら6万円程度、株式会社なら20〜25万円程度)に加えて、毎年の税理士費用や会計ソフト代、社会保険の手続きなど、ランニングコストも増えます。
また、赤字でも法人住民税の均等割(年間7万円程度)は納める義務があります。売上が不安定な時期がある業種の場合、この点も計算に入れておく必要があります。「法人化すれば絶対お得」とは言い切れないのが正直なところです。
まずは一度、試算してもらうことをおすすめします
法人化の効果は、収入の水準・経費の構成・将来の事業計画によって大きく変わります。「年収700万円だから法人化する」と一律に決めるのではなく、税理士に個別シミュレーションをしてもらうのが最短ルートです。
もし今まで「法人化なんて自分には関係ない」と思っていたなら、一度相談してみてください。想像以上に手取りが変わる可能性があります。そして相談するなら、来期の話をするより今期のうちに動くほうが選択肢は広がります。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。