先日、個人事業主として10年以上コンサル業を営む社長から、こんな相談を受けました。「売上は順調なのに、毎年税金でごっそり持っていかれる気がして。このまま個人のままでいいのかどうか、正直迷っています」と。
年商が増えるにつれ、この悩みを抱える方は本当に多いです。今日はその「法人化すると何が変わるのか」について、数字を交えながら具体的にお話しします。
個人事業主は稼ぐほど税率が上がる
まず前提として押さえておきたいのが、個人事業主にかかる所得税の仕組みです。所得税は「累進課税」なので、稼げば稼ぐほど税率が上がります。年間所得が900万円を超えると税率は33%、1,800万円を超えると40%、4,000万円超では45%に達します。
ここに住民税10%が乗ってくるので、年収1,000万円を超えた個人事業主は、実質40%超を税金として支払っている計算になります。努力して売上を伸ばしたのに、その果実の大半が税金に消えていく——これが個人事業主の現実です。
法人にすると税率が一気に下がる
法人税はどうでしょうか。中小企業の場合、所得800万円以下の部分に対する実効税率は約23%程度(法人税+地方税)です。個人の最高45%と比べると、その差は22ポイント以上。年収1,000万円のケースでこの税率差だけを単純計算しても、数十万円単位の節税になります。
ただ、法人化の本当のメリットはこの税率差だけではありません。ここからが本題です。
「給与所得控除」という見落とされがちな武器
法人化すると、社長は自分の会社から「役員報酬」として給与を受け取ります。これが給与所得として扱われるため、「給与所得控除」が自動的に適用されます。
給与所得控除とは、給与収入に応じて一定額を差し引いてくれる制度です。年収850万円なら195万円、1,000万円なら220万円が控除されます。個人事業主のままでは使えなかったこの控除が、法人化した途端に使えるようになる——これは見逃せない節税ポイントです。
社会保険料まで「経費」になる
3つ目のメリットが、社会保険料の扱いの違いです。
個人事業主は国民健康保険料と国民年金を自分で払いますが、これは「経費」にはなりません(所得控除の対象にはなりますが、限度額があります)。
一方、法人の場合は会社が負担する健康保険・厚生年金の会社負担分を全額経費として計上できます。役員分も含めてです。この差が、さらに数十万円単位の節税効果を生みます。
3つ合わせると「年150万円超」が見えてくる
ここまでの効果を整理すると、法人化による節税は大きく3層構造になっています。
- 税率差(所得税45% → 法人税約23%)による節税
- 給与所得控除の活用による節税
- 社会保険料の会社負担分を経費化する節税
この3つが重なると、年収1,000万円前後の方では年間150万円を超える節税も十分に現実的な数字です。月換算で12万円以上の手残り改善——この差が10年積み上がれば、1,500万円以上の違いになります。
正直に話すデメリットも
ただ、いいことばかり言うのは不誠実なのでデメリットもお伝えします。
法人を維持するには、税理士費用・登記費用・決算申告費用など、最低でも年間30〜50万円程度の固定コストがかかります。また、法人にすると役員も社会保険に強制加入になるため、保険料の絶対額が増える側面もあります。法人設立の初期費用(登録免許税・定款認証費用など)も20〜30万円は見ておく必要があります。
つまり「法人化すれば必ず得をする」わけではなく、利益水準によっては維持コストが節税メリットを上回るケースもあるのです。
判断の目安は「年間利益700〜800万円」
一つの転換点として、「利益が年700〜800万円を安定して超えるようになったとき」を目安にする税理士が多いです。それ以下の段階で法人化すると、維持コストだけが先行してしまいます。
「法人化=節税」と単純に考えるのではなく、現在の利益水準・将来の事業計画・個人の生活費のバランスを踏まえた判断が大切です。
まだ個人事業主のままで法人化を迷っている方は、ぜひ一度、現状の利益と試算を税理士に持ち込んでみてください。「あと何年で法人化のタイミングか」が具体的な数字でわかるはずです。法人化は一度やったら後戻りしにくい決断だからこそ、早めに専門家と相談しておくのがおすすめです。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。