先日、東京で建設業を営む社長から、こんな電話がかかってきました。
「10年積み立てた経営セーフティ共済を解約して、翌月に再加入したんですが……税理士から『2年間は損金になりません』と言われて』
声に動揺が滲んでいました。よく話を聞くと、損失の総額は500万円近くになるかもしれないとのこと。この改正、まだ知らない社長が本当に多いんです。
長年使われてきた「定番の節税スキーム」
経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済)は、掛金を全額損金算入できるため、中小企業の節税ツールとして広く活用されてきました。
そのなかでも特に多かった使い方が、「積み立て→解約→退職金と相殺→翌月再加入」というサイクルです。解約手当金を役員退職金と同じ期に計上することで税負担を大幅に圧縮し、翌月すぐに再加入してリセット。これを繰り返すことで、継続的に節税効果を得る手法です。合法で、多くの税理士が提案してきた正攻法でした。
田中社長(仮名)もまさにそのやり方を実践してきた一人。毎月20万円、10年間積み立て続け、総額約2,400万円を運用してきました。
2024年10月、ルールが静かに変わった
転機は2024年10月に施行された制度改正です。
追加されたルールはシンプルです。「解約後2年間は、再加入しても掛金を損金算入できない」。
たったこれだけの変更ですが、影響は甚大です。これまで「解約翌月に再加入すれば即座に損金」だったものが、2年間はただの積立金になってしまう。節税効果がゼロになるわけです。
田中社長はこの改正を把握していないまま、解約の翌月に再加入しました。毎月20万円の掛金を継続したため、2年間で480万円が損金不算入になりました。
追徴課税だけで160万円を超えた
損金にならないということは、その分の所得に法人税がかかるということです。
法人実効税率を約33%とすると、480万円の損金不算入によって生じる追加の法人税は160万円を超えます。さらに、退職金対策として設計していたスキーム全体を組み直す必要が生じ、コンサルティング費用や対応コストも重なりました。総損失は500万円近くという試算になっています。
「改正があったのは知っていたけど、自分には関係ないと思っていた」という田中社長の一言が、刺さりました。こういった落とし穴は、知っている人には当たり前でも、知らない人にはまったく見えないものです。
今すぐ確認してほしい3つのこと
現在、経営セーフティ共済に加入中の社長は、以下の点をすぐに確認してください。
- 直近2年以内に解約したことがないか
- 解約後2年を待たずに再加入していないか
- 税理士に改正後の出口戦略を相談しているか
特に2023年以降に解約した方は要注意です。再加入のタイミングを焦ると、掛金を払い続けても損金にならない状態が続きます。その間の資金は、他の節税手段に振り向けるほうが合理的な場合もあります。
制度が変わる前に動けた人との差
同じ年商規模で、改正前に解約・再加入を済ませた社長と、改正後に気づかず動いてしまった社長。どちらが良い悪いではなく、情報を得るタイミングだけで数百万円の差が生まれます。
経営セーフティ共済を「積み立て中だから安心」と放置している社長も、一度税理士に現状を整理してもらうことをおすすめします。今の積み立て残高と解約タイミング、退職金との相殺戦略を、改正後のルールに合わせて設計し直すだけで、出口での手取りが大きく変わります。
田中社長の話は、決して特殊なケースではありません。制度は変わります。そして変わった瞬間に、以前の常識が落とし穴に変わることがある。「自分はちゃんとやってきた」という自信が、確認を後回しにさせてしまうことがあるのです。
今期中に、一度だけ税理士に「経営セーフティ共済の出口、今の制度で問題ありませんか?」と聞いてみてください。それだけで、500万円の損失を未然に防げる可能性があります。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。