先日、創業40年を迎える製造業の社長から、こんな相談を受けました。
「息子に会社を継がせたいんだけど、株の評価額が3億円もあってね。贈与したら税金だけで1億円を超えるって言われて……」
確かにそれは青ざめる話です。3億円の非上場株式を贈与すると、贈与税は最大で1億円以上。現金で払える人はほとんどいませんし、会社の株式を売って税金を工面するのも難しい。「じゃあどうすれば?」と途方に暮れる社長は少なくありません。
ところが、この問題をほぼ解消できる制度があります。事業承継税制の特例措置です。
贈与税が「ゼロ」になる仕組み
正確には「ゼロ」ではなく「100%猶予」です。ただ、要件を満たし続ける限り実質的に納税する必要がなく、最終的には免除になるケースもあります。
この制度の正式名称は「非上場株式等についての贈与税の納税猶予及び免除の特例」。名前は長いですが、骨格はシンプルです。後継者が非上場株式を先代経営者から贈与で受け取る際、一定要件を満たせば贈与税の全額が猶予される——それだけです。
3億円の株に対して本来1億円超かかるはずの贈与税が、まるごと猶予される。これが特例措置の威力です。
通常の贈与税と比べると
もし特例措置を使わずに3億円の株を贈与した場合、贈与税の最高税率は55%(1億円超の部分)。基礎控除を差し引いたとしても、納税額は1億円以上になるのが普通です。
毎年少しずつ贈与する「暦年贈与」で分散させる方法もありますが、3億円を非課税に近い形で引き継がせるのはほぼ不可能です。一方、特例措置を使えば後継者への贈与時に贈与税の納付が猶予され、要件を維持する限りその猶予が続きます。キャッシュアウトなしで株式の引き継ぎが完了するわけです。
適用の主な要件
特例措置を使うには、いくつかの要件があります。
先代経営者(贈与する側)の要件
- 会社の代表者であったこと
- 贈与時点で代表を退任していること(または退任予定)
- 筆頭株主であったこと
後継者(受け取る側)の要件
- 贈与を受けた後、代表者に就任すること
- 一定期間、経営を継続すること(雇用維持要件など)
さらに、特例措置を使うには「特例承継計画」を都道府県知事に認定してもらう必要があります。この計画の申請期限はすでに2024年3月末で終わっていますが、贈与・相続の実行期限は2027年12月末まで残っています。計画の認定を受けた会社であれば、今からでも特例適用を目指せます。
「猶予が取り消される」リスクも知っておく
特例措置は、使いさえすれば安心というわけではありません。後継者が5年以内に経営を辞めてしまったり、会社が廃業・解散した場合などは猶予が取り消され、猶予税額に利子税を加えて一括納付を求められます。
「税金を先送りしているだけ」という見方もできるため、後継者がしっかり経営を継続できる体制を整えたうえで設計することが大切です。実際の運用では雇用維持要件の緩和措置もあるので、詳細は認定支援機関や税理士と確認してください。
2027年12月末という「タイムリミット」
特例措置には明確な期限があります。贈与・相続の実行は2027年12月31日まで。
「そのうちやればいい」と後回しにしていると、期限を過ぎた途端に選択肢が消えます。3億円の株なら、期限後に同じことをしようとすると1億円以上の贈与税が復活する。これはほんとうに大きな差です。
特例承継計画の認定を受けている会社は、今すぐ税理士に相談して実行スケジュールを固めるべきタイミングです。まだ計画を提出していない会社は特例措置の対象外になっていますが、通常の「一般措置」は引き続き活用できます。まず自社がどちらの状況にあるかを確認するところから始めてみてください。
まず「自社株の評価額」を把握することから
特例措置を使うかどうかを検討する前に、そもそも自社株の評価額がいくらなのかを把握していない社長は意外と多いです。
中小企業の非上場株式は、純資産や収益力によって評価額が変わります。「儲かっている会社ほど株価が高く、相続・贈与コストが重くなる」という構造があります。事業承継を考え始めたら、まず税理士に自社株の評価額を試算してもらうことをおすすめします。そこから「いくら税負担がかかるか」「特例措置を使えるか」「代替策は何か」という順番で検討が進みます。
2027年末の期限を射程に入れているなら、実質的な準備期間は残り1年半です。動き出すなら、今年中がリミットだと思って動いてみてください。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。