先日、ある製造業の社長からこんな連絡がありました。

「今年こそ息子に会社を引き継ごうと思っているんですが、試算してみたら株式の評価額がやけに高くて……」

話を聞いてみると、会社の業績は数年前とほぼ変わっていない。それなのに評価額だけが、2〜3年前と比べて数億円も跳ね上がっていたんです。

なぜこんなことが起きるのか。じつは、そこには多くの社長が見落としがちな「株価トラップ」が潜んでいます。

非上場でも「日本株の動き」が評価額に直撃する

自社株の評価といえば、「うちは上場していないから株価とは関係ない」と思う方も多いですよね。

ところが、非上場株式の評価方法のひとつである類似業種比準方式では、東証に上場している同業他社の株価データを参照して計算します。日経平均が上昇したり、同業他社の株価が高騰したりすると、自社の評価額も自動的に引き上げられる仕組みになっているんです。

これは国税庁が定めた評価ルールなので、会社側でコントロールできるものではありません。市場が好調なときに承継の手続きを進めてしまうと、意図せず「高値づかみ」で贈与税を払う羽目になります。

評価額が3億円増えると、税負担はどう変わる?

贈与税は、課税価格が高くなるほど税率も上がります。大きな金額になると最高税率55%が適用されるため、評価額が3億円増えただけで、税負担が1億円以上膨らむケースも現実にあります。

たとえば、2年前なら株式評価額が5億円だったとします。それが今年の試算では8億円になっていた。この差額3億円に対して余計な贈与税を負担することになるわけで、承継のタイミングひとつで、億単位のお金が動いてしまうんです。

「業績は変わっていないのに、なぜ評価額が上がるの?」と思うかもしれませんが、それが類似業種比準方式の特性です。自社の数字だけでなく、マーケット全体の動向が評価額に反映されてしまう。これが「株価トラップ」の正体です。

特例措置の「2027年末期限」も見逃せない

こうした状況だからこそ、早めに動く理由があります。

事業承継税制の特例措置は、2027年12月末が適用期限です。この制度を活用すれば、後継者が株式を引き継ぐ際の贈与税・相続税の納税を猶予・免除できる可能性があります。

ただし、適用を受けるためには事前に「特例承継計画」を策定し、都道府県に認定申請するプロセスが必要です。準備から認定まで1〜2年かかることも珍しくないため、「まだ先の話」と先送りにしていると、気づいたときには期限に間に合わない、という事態になりかねません。

いつ承継すれば税負担を抑えられるのか

ポイントは、株価が落ち着いている時期を見極めることです。

目安として、次のような状況が重なるタイミングが検討候補になります。

  • 日経平均が大きく下落した後の低迷期
  • 同業他社の業績悪化が株価に反映されているとき
  • 自社の利益が一時的に落ち込んでいる決算期

もちろん、承継は税負担だけで決めるものではありません。後継者の準備状況、取引先や金融機関との関係、従業員への周知など、考慮すべき要素は多い。だからこそ、「税コストの最小化」という視点を早い段階から持っておくことが大切なんです。

もし「いつか息子や娘に引き継がせたいと思っている」という段階であれば、今すぐ動かなくていいとしても、今の株式評価額がどれくらいかを把握しておくことは強くおすすめします。評価額を知らないまま走り始めると、「こんなはずじゃなかった」という事態を後から招きかねません。

まずは税理士に相談して、現時点での試算だけでも取っておいてください。株価が高い今だからこそ、動き出すタイミングを計る準備をしておくことが、将来の億単位の節税につながります。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。