先日、ある経営者の集まりで聞いた話です。年商1億円、同期で創業した2人の社長が、決算を終えて飲みに行ったら法人税の額が約300万円も違っていた。売上も利益率もほぼ同じなのに。
「俺、何か損してるのか?」と気づいた方の社長が、顧問税理士に相談したのが始まりでした。この話、決して他人事ではありません。
同じ売上でも「経費の使い方」が税負担を決める
法人税は「売上-経費=利益」に課税されます。つまり、合法的に経費を積み上げられるほど、税負担は軽くなります。
問題は、「何が経費になるか」の知識に、社長によって大きな差があることです。節税が得意な社長は、同じビジネス活動をしていても、税務上の優遇ルールを最大限に活用して経費を増やしています。
ここでは、冒頭の2社の差を生んだ3つのポイントを順に見ていきます。
① 役員社宅:家賃の大部分が会社の経費になる
社長が自分名義で賃貸を借りて住んでいる場合、家賃は「プライベートの支出」として全額自腹です。でも会社が物件を借りて、社長に「社宅」として貸す形にすると、話が変わります。
会社が支払う家賃の全額が法人経費になり、社長が会社に支払う社宅使用料(相場として賃料の10〜20%程度)は給与として課税されません。社長の手取りを守りながら、会社の税負担も減る。二重にメリットが出る仕組みです。
月20万円の家賃なら、設計次第で年間200万円近くを法人経費にすることも可能です。「自宅家賃を払い続けているだけ」の状態は、実は大きな機会損失かもしれません。
② 日当規程:出張のたびに非課税で受け取れる
出張費の「日当」は、旅費規程に基づいて支給すれば社長が受け取っても給与扱いにならない、つまり所得税がかかりません。社会保険料の対象にもなりません。
会社側は損金として経費計上できて、社長側では非課税。この二重メリットが日当規程の魅力です。
頻繁に出張がある社長なら、年間数十万〜100万円以上の節税になることもあります。「出張が多い」という事実が、そのまま節税のチャンスに変わるわけです。旅費規程を作っていない会社は、毎回の出張で税金を払い続けているようなものです。
③ 交際費の少額基準:1人1万円以下なら課税なし
法人の交際費は原則として損金算入に制限がありますが、1人あたり1万円以下の飲食費は交際費から除外されます(2024年度税制改正で5,000円から引き上げ)。
1人1万円以下のランチミーティングや軽い会食なら、「会議費」などで処理できる場合があります。交際費の制限を気にせず、丸ごと経費に落とせるということです。
このルールを知っているかどうかだけで、日常的な飲食にかかる税負担がまったく変わります。金額が小さいからといって、処理をいい加減にしていると積み重ねで大きな差になります。
年300万円の差は、こうして生まれた
3つの経費処理を合算すると、2社の年間経費の差は約900万円になりました。
- 役員社宅の活用で年間約500万円の差
- 日当規程の整備で年間約200万円の差
- 交際費の少額処理で年間約200万円の差
この900万円に、法人実効税率の約33%をかけると、年300万円の節税格差が生まれます。同じビジネスをして、同じ売上を上げていて、この差。これが「経費処理の知識」の現実的な価値です。
やりすぎると税務調査で否認される
ここで大切な注意点があります。
役員社宅も日当も、税務上のルールに沿って適切に設計しなければ否認されるリスクがあります。社宅の使用料が不当に低すぎれば給与認定されますし、日当が過大なら使途不明金として問題になることも。
「節税になると聞いたから」で安易に導入するのではなく、税理士と一緒に規程を整備して根拠をきちんと作ることが前提です。形だけ整えても、実態が伴っていなければ意味がありません。
「気づいていなかった」が最大のコスト
節税対策を始める社長がよく口にするのが「もっと早く知っていれば」という言葉です。3年前から導入していれば、それだけで900万円が手元に残ったかもしれない。
まだ日当規程や役員社宅を整備していないなら、今期の決算前に税理士へ相談してみてください。制度を使える状態にしておくだけで、来期以降の税負担は確実に変わります。
同じ売上でも、知っているかどうかで手残りが変わる。それが法人税の現実です。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。