先日、年商3億円の建設会社を経営する社長と話していたとき、こんなひとことをもらいました。
「うちの顧問税理士、去年の決算後に『これ、もっと早く言ってくれれば経費で落とせたのに』って言うんだよね。もう遅いって言われても困るんだけど」
笑い話のようで、実際にはよくある話です。経費の取りこぼしは、「知らなかった」だけで起きてしまう。しかも一度見落とすと、そのまま毎年繰り返すことになります。
今回は、中小企業の社長が見落としがちな経費ワースト3を、使える理由と注意点とともに整理しておきます。
第3位:1人1万円以下の飲食費は、全額経費になっていた
取引先との食事、接待——これを交際費として処理する場合、長年にわたって「1人5,000円以下」という基準が使われてきました。
ところが、2024年4月1日以降、この上限が1人1万円以下に引き上げられています。つまり、1人当たり9,800円の会食なら、全額を交際費として損金算入できるようになりました。
5,000円という旧ルールを頭に入れたまま、「この店は高いから交際費で落とすのは無理かな」と自己判断で諦めていた社長は少なくありません。毎月2〜3回こうした食事があれば、年間で数万円単位の取りこぼしになります。
注意点としては、接待等の相手の氏名・人数・目的をきちんと記録しておくことが必要です。レシートだけでは不十分で、帳簿や申告書の添付書類に正確な記載が求められます。
第2位:旅費規程さえあれば、日当は非課税で受け取れる
社長自身が出張するとき、交通費と宿泊費だけ精算していませんか?
旅費規程を整備すると、出張日当を会社から支払うことができます。この日当、受け取る側(社長)には所得税がかからないのが最大のポイントです。
給与や役員報酬として受け取ると、所得税・住民税・社会保険料の対象になります。日当はそのどれにも該当しない。つまり、同じ金額を会社から受け取っても、手取りが全然違います。
たとえば1日5,000円の日当を月に4〜5日出張があるとすると、月2万〜2万5,000円。年間に換算すれば24〜30万円が、税金も保険料もかからずに受け取れることになります。
旅費規程は特別な届け出が必要なわけではなく、社内規程として作成すれば足ります。ただし、同業他社の相場と著しくかけ離れた高額な設定にすると、税務署から「実態に合わない」と指摘を受けることがあります。金額は会社の規模や業種に合わせて、常識的な範囲で設定しましょう。
第1位:役員社宅は、知っている社長と知らない社長で差がつく
個人的には、これが最も「知っているだけで差がつく」制度だと思っています。
自宅の家賃を全額自分で払っている社長は多いです。しかし、会社が物件を借り上げて社長に貸し出す「役員社宅」にすると、家賃の一部を会社の経費にできます。
具体的には、国税庁の通達に定められた計算式(固定資産税評価額をベースにした「賃貸料相当額」)を算出し、その金額を社長が会社に支払えば、残りの差額は会社負担の経費として認められます。
たとえば月20万円の家賃で、賃貸料相当額が4万円と計算されたとしたら、社長は毎月4万円を会社に払い、残り16万円は会社の経費になります。これが12か月続けば、年間192万円の経費が生まれることになります。役員報酬で受け取って自分で家賃を払うのと比べると、税金・保険料の差は非常に大きくなります。
この仕組み、知っているかどうかだけで何十万円もの違いになるのに、使っていない社長がまだたくさんいます。
注意点として、新築・高額物件の場合は計算式の扱いが異なり、「小規模住宅の特例」が使えない場合もあります。既存の個人契約を法人契約に切り替える際の手続きも必要なので、導入を検討する場合は税理士に相談してから進めることをおすすめします。
今期中に確認しておきたいこと
この3つ、共通しているのは「制度はあるのに使っていない」という状態です。節税のために特別なスキームを使う必要はなく、普通に認められている経費を正しく拾うだけで、年間50万円規模の差になることがあります。
旅費規程をまだ作っていないなら、今期中に整備するのがおすすめです。飲食費の1万円ルールも、古い記憶で自己判断せずに今一度確認してみてください。役員社宅については、来期以降の契約更新のタイミングで切り替えを検討する価値があります。
経費の見落としは、知った瞬間から取り戻せます。決算が終わってから気づくより、今気づいた方が絶対にいい。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。