先日、ある経営者の集まりでこんな話を聞きました。「うちは製造業だし、経費にできるものなんてたかが知れてる。顧問税理士にもそう言われてる」——そう語っていたのは、年商3億ほどの会社を経営する田中社長(仮名)です。
その言葉が少し引っかかりました。経費の「種類」ではなく「組み合わせ」を変えるだけで、手元のお金をほとんど動かさずに大きな節税ができるケースがあるからです。
後日、田中社長は別の税理士に相談することにしました。その結果として起きたことを、今日は具体的にお話しします。
「うちは節税の余地がない」は本当か
田中社長は長年、地元の税理士に決算を任せていました。毎年決算のたびに「節税の余地はあまりないですね」と言われ続け、そういうものだと諦めていたそうです。
ところが同規模の経営者仲間から「制度の使い方を変えただけで年100万以上変わった」という話を耳にします。「一度、別の視点で見てもらおう」——そう思って別の税理士に相談したのが、変化のきっかけでした。
お金の流れを変えた3つの打ち手
相談の結果、見直したのは次の3点です。特別なスキームでも、グレーな手法でもありません。
① 役員社宅の導入
田中社長は家賃月20万円の賃貸マンションに住んでいましたが、その契約を個人から法人名義に切り替えました。いわゆる「役員社宅」の仕組みです。
役員が支払う賃料(家賃の10〜20%程度)を差し引いても、年間約180万円が法人の損金になりました。自分が住む家に入るお金のルートを変えただけで、追加の出費はほぼありません。
② 旅費規程の整備
会社の旅費規程を見直し、出張時に支払う日当の金額を明文化しました。役員の出張日当は、適切な規程があれば個人側では非課税で受け取れます。
田中社長の場合、月に数回の出張があり、規程を整備することで年間60万円ほどの日当を非課税で受け取れるように。この60万円は法人の損金になり、個人の課税所得にもなりません。規程を作るだけで実現できた打ち手です。
③ 経営セーフティ共済への加入
経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済)は、掛け金を全額損金にできる制度です。月最大20万円、年240万円まで加入できます。
田中社長はそれまで未加入だったため、年120万円分の掛け金を損金算入しました。将来は解約返戻金として戻ってくるため、実質的な支出増になりにくいのが特徴です。
3つ合わせて年120万円の節税効果
この3つを組み合わせた結果、損金に算入できる金額が年間で360万円増えました。
法人実効税率をおよそ34%として計算すると、360万円 × 34% = 約122万円の節税です。
田中社長が感じたのは「なぜもっと早く相談しなかったんだろう」という後悔と、「やることは地味だけど、効果は大きい」という実感だったそうです。
経費を増やすのではなく「流れ」を変える
節税と聞くと「余分な出費をして経費を作る」イメージを持つ方も多いですが、今回の事例はそうではありません。
自宅の家賃は元々払っていた。出張にも元々行っていた。セーフティ共済の掛け金は将来戻ってくる。
お金の総量はほとんど変わらず、流れを変えることで節税を実現しています。こういった「制度の正しい活用」こそ、真っ先に手をつけるべき節税の形だと思います。
もしご自身の会社でまだ役員社宅や旅費規程が整備されていないなら、次の決算前に顧問税理士に一度確認してみてください。「これ、うちでも使えますか?」のひと言が、案外大きな変化につながることがあります。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。