先日、年商3億円の建設会社の社長からこんな一言をもらいました。「法人化したのに、なんで手残りが増えないんですかね」と。

決算書を一緒に眺めてみると、「あ、これは確かに」と思う空白がいくつも見えてきました。法人化した瞬間に使えるようになるはずの「経費の引き出し」が、まるごと手つかずだったのです。

使うか使わないかで、年間の手残りに500万円近い差が生まれることもあります。今日は、特に効果の大きい3つの仕組みをお話しします。

「旅費規程」一枚で、非課税の現金が毎月届く

サラリーマンなら馴染みのある出張手当ですが、法人の役員も同じように受け取ることができます。しかもこの日当、法人側では経費になり、受け取った役員には所得税がかかりません。給与と違って社会保険料も引かれない「非課税の現金」として手元に残るのです。

ポイントは「旅費規程(日当規程)」という社内規定を一枚整備すること。出張先・距離・職位ごとの日当額を定めておけば、国税庁も認める正当な経費として処理できます。

月に数回の出張が当たり前の社長なら、年間100〜120万円規模になるケースも珍しくありません。「どうやって作るの?」と思われるかもしれませんが、税理士に相談すれば数時間で整備できます。書類一枚でこれだけの効果があるなら、やらない理由がありません。

国の制度なのに、使っていない社長が驚くほど多い

「経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済)」という制度があります。取引先が突然倒産したとき、売掛金の回収に困らないよう備えるための国の共済制度です。

ここで重要なのが税務メリット。掛け金は全額損金算入、つまり丸ごと経費にできます。月額最大20万円、年間240万円がそのまま損金として落ちる計算です。

「払いっぱなしじゃないの?」という声もよく聞きますが、そうではありません。40ヶ月以上加入すれば、解約時に掛け金の全額が戻ってきます。利益が出た年度に積み立てて経費にし、売上が落ちた年に解約して益金に計上する。節税と資金繰りを同時に解決できる、一石二鳥の仕組みです。

年240万円を10年続けると、累計2,400万円の損金処理。これを知らずに放置しているのは、本当にもったいないです。

最も節税効果が大きいのは「役員社宅」

個人で借りている自宅の家賃は、いくら高くても経費になりません。しかし法人が物件を借り、役員に「転貸している」形にすると、話がまったく変わります。

国税庁の定める計算式(固定資産税の評価額や床面積をもとにした算式)で「適正賃料」を算出し、役員はその金額だけ会社に払えばOK。差額は法人の経費として認められます。

たとえば月20万円の賃貸物件で計算した場合、役員の自己負担が3〜5万円程度に収まるケースがあります。残りの15〜17万円は法人経費です。年間に直すと、180〜200万円以上が経費として落ちることになります。

ただし、物件の種類(小規模住宅か豪華住宅か)によって計算式が異なります。いわゆる「豪華社宅」には別のルールが適用されるため、契約前に税理士との確認が必須です。

3つ合わせると、年500万円の経費差になる

整理するとこうなります。

  • 出張日当規程:年間100〜120万円
  • 経営セーフティ共済:年間240万円
  • 役員社宅:年間150〜200万円

合計で490〜560万円。「法人化したのに手残りが増えない」という社長の多くが、これらを一つも使っていません。顧問税理士としっかり連携できている社長は、当たり前のように活用しています。この差が、数年後の資産差に直結します。

法人化は、税負担を最適化するための「スタートライン」に過ぎません。法人格を持っているだけでは意味がなく、こうした制度を使いこなしてはじめて、個人事業主との差が開いていきます。

もし旅費規程をまだ作っていないなら、今期中に整備しておくことをおすすめします。一度作ればずっと使い続けられる仕組みです。今の顧問税理士に相談するか、これを機に節税に強い税理士を探してみるのも一つの手です。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。