先日、年収1,200万円ほどの個人事業主の方からこんな相談を受けました。「そろそろ法人化を考えているけど、正直メリットがよくわからなくて踏み出せない」と。

話を聞いていると、毎年200万円以上の節税チャンスを見逃していることがわかりました。法人化した途端に使えるようになる経費の話を始めたところ、最初は半信半疑でした。でも試算を見せたら、「なんでもっと早く知らなかったんだ」と悔しそうな顔をされていました。

今日は、法人化で一気に解禁される経費の仕組みを、できるだけ具体的にお伝えします。

個人事業主と法人、経費の差はどこにある?

個人事業主でも経費は使えます。ただ、使える「種類」と「設計の自由度」が法人とはまるで違います。

個人事業主の場合、「事業に直接関係するもの」しか経費にできません。家賃も按分が必要で、プライベートと事業の線引きが難しい。家族への給与も、青色申告の専従者給与という制度はありますが、条件が厳しく金額の自由度も低いです。

一方、法人になると話が変わります。役員という立場が生まれ、会社と社長の間に「契約」という関係が成立します。この契約ベースの関係が、経費の幅を一気に広げるんです。

法人化で解禁される3つの経費

役員社宅

自宅を会社名義で借りる、あるいは会社が家賃の大部分を負担する仕組みです。税法上、役員が受け取る住宅手当は給与扱いになりますが、会社が社宅を提供する形にすれば、家賃の多くを法人の経費にできます。

月10万円の家賃なら、計算上6〜7万円前後を法人経費にすることが可能です。年間に換算すると36万円前後の経費が生まれます。国税庁の通達に基づく計算式があるので、税理士と一緒に確認するのが安全です。

家族への給与

法人であれば、配偶者や親族を従業員として雇用し、給与を支払えます。個人事業の専従者給与と違い、実態に応じた金額を設定できる柔軟性があります。

月10万円を配偶者に支払う場合、年間120万円が法人の経費になります。さらに、受け取る側は給与所得控除(最低55万円)が使えるため、受け取った側の所得税もほとんどかかりません。家族全体で見ると、所得の分散効果まで得られます。

もちろん、業務実態がなければ税務署に否認されるリスクがあります。実際に業務を担ってもらう前提で設計してください。

出張日当・福利厚生

法人は「旅費規程」を作成することで、出張の際に日当を支払えます。この日当は受け取る側が非課税で、かつ法人側は経費計上できます。課税されずに手元にお金が残せる、数少ない仕組みのひとつです。

月に数回出張するような経営者なら、年間30〜50万円の日当を非課税で受け取ることも珍しくありません。加えて、健康診断・研修費用・慶弔見舞金なども福利厚生費として経費化できます。個人では「自分のために使ったお金」になってしまうものが、法人を通すと経費になるわけです。

試算してみると、10年で最大680万円の差

3つを合算するとこうなります。

  • 役員社宅:年約36万円
  • 家族への給与:年約120万円
  • 出張日当・福利厚生:年約50万円

合計で年間206万円超の経費が生まれます。法人の実効税率は利益水準によりますが、中小企業では22〜34%が目安です。年206万円の経費に対して、節税効果は年間44〜68万円ほど。これを10年続けると、最大680万円の差になります。

社会保険料の負担増や法人設立・維持のコストも考慮は必要です。それでも、ある程度の利益が出ている方には十分すぎるメリットがあります。

「知らなかった」では済まない話

法人化のタイミングを逃すと、それだけ節税の機会を失い続けます。「いつか法人化しよう」と思いながら個人事業主のままでいる間も、毎年200万円超の経費枠が使われないまま消えています。

一方で、法人化すれば何でも経費になるという誤解も危険です。実態のない経費、家族への過大な給与、役員社宅の賃料計算ミスなどは、税務調査で指摘を受けやすいポイントです。経費の設計は「作れる仕組み」を理解した上で、税理士と一緒に適切に整備するのが正解です。

法人化を検討しているなら、今期の利益が確定する前に一度税理士に相談してみてください。早ければ早いほど、使える経費を丁寧に設計できます。まだ役員社宅や旅費規程を整備していないなら、今期中に着手しておくのがおすすめです。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。