先日、個人事業から法人化して3年目という製造業の社長から、こんな質問を受けました。
「事務所の家賃、個人口座から引き落としにしてるんですけど、別に問題ないですよね?」
正直に言うと、それ、かなりもったいないです。
個人名義で事務所の家賃を払い続けていると、その支出は「個人のお金の使い方」として処理されます。法人の経費として計上できないため、本来なら節税に使えるはずのお金が、毎月そのまま手元から消えていくことになります。
個人払いと法人払い、税負担はどう変わる?
月15万円の事務所家賃を個人で払っているとしましょう。年間180万円ですね。
この180万円は、個人払いのままでは法人の経費になりません。一方、法人名義で賃貸借契約を結び、法人口座から振り込むようにすれば、180万円まるごと法人の経費として計上できます。
法人の実効税率は、所得800万円を超えるケースでおよそ34%です。年間180万円の経費が増えれば、その34%分——つまり約60万円の税負担が軽くなります。
月15万円の家賃を個人払いにしているだけで、毎年60万円を余分に払い続けているとしたら、どう感じますか?
切り替えは3ステップで完結する
難しそうに聞こえるかもしれませんが、手順はシンプルです。
ステップ1:大家さんに相談する
まずは賃貸人(大家さんや不動産管理会社)に、契約者を個人から法人に変更したい旨を伝えます。多くの場合、法人格があれば審査を経て変更してもらえます。保証人の変更を求められることもありますが、法人の信用力が十分あればスムーズに進むことが多いです。
ステップ2:法人名義で賃貸借契約を結ぶ
大家さんの同意が得られたら、法人名義で契約を締結します。既存の契約を変更する形になるケースも、一度解約して新規契約を結び直すケースもあります。どちらになるかは管理会社の方針によりますが、どちらの形でも経費計上の効果は変わりません。
ステップ3:法人口座から振り込む
契約変更が完了したら、毎月の家賃を法人口座から振り込むだけです。これで家賃が正式に法人の経費として積み上がっていきます。仕組みを一度整えてしまえば、あとは毎月自動的に節税が進んでいく状態になります。
住居部分がある場合は少し話が変わる
ひとつ注意点があります。事務所に住居部分が含まれる「自宅兼事務所」のケースでは、家賃の全額を法人経費にすることはできません。
事務所として使っている面積の割合に応じた「按分」が必要になり、自宅部分は経費計上の対象外です。間取り図や面積計算の記録など、按分の根拠をしっかり残しておくことが大切です。税務調査の際に根拠を示せるかどうかで、結果が変わることがあります。
また、大家さんが法人への名義変更を断るケースもゼロではありません。その場合、個人が法人に転貸する形で対応できることもありますが、これも契約書の内容や大家さんの同意が必要です。状況によって対応が変わるため、税理士や不動産の専門家に相談しながら進めるのがベストです。
「後回し」が一番のコスト
法人化したのに家賃の名義をそのままにしているケースは、実は珍しくありません。「そのうち変えよう」と思っているうちに気づけば3年経っていた——そんな話はよく聞きます。
月15万円の家賃なら、3年間で積み上がる節税チャンスの損失はおよそ180万円です。手続きを先延ばしにするほど、もったいない金額が膨らんでいきます。
大家さんへの打診は、明日からでもできます。まだ個人名義のままという方は、今期中に動いておくことをお勧めします。具体的な試算や契約変更の段取りについては、顧問税理士と一緒に確認しながら進めるのがスムーズです。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。