先日、IT系の会社を経営する社長から、こんな相談を受けました。
「毎月20万円の家賃、ずっと個人で払ってきたんですが……これって、何かできないですかね?」
話を聞いてみると、書斎と一室を事務所として使い、リモートで仕事をこなしている。にもかかわらず、10年近く家賃は全額個人負担。年間240万円を、ただの「生活費」として払い続けていたのです。
使っているスペースの分だけ、法人の経費にできる
使用面積の按分さえきちんと計算できれば、自宅家賃の一部を法人の損金に算入することができます。
冒頭の社長の場合、自宅の床面積のうち50%を事業用スペースとして使用していると認められたため、毎月20万円の家賃のうち10万円が法人経費に。年間では120万円の損金が生まれました。
法人実効税率を約33%で計算すると、節税効果は年間で約40万円。これが毎年続くわけですから、積み上がると決して小さくない数字です。
「なぜもっと早く相談しなかったんだろう」
社長が少し悔しそうに言っていたのが、今でも印象に残っています。
なぜ法人経費にできるのか
自宅を「事務所」として実際に使っている場合、その使用実態に応じて家賃を按分することは、税務上認められています。
ポイントは「事業の実態があること」です。
自宅に事務スペースがある、打ち合わせを行う、資料を保管している——こうした実態があれば、家賃の一部を法人経費として計上できます。逆に、名目だけで実態が伴っていない場合は否認リスクがあります。この線引きは明確にしておく必要があります。
なお、物件が法人契約か個人契約かによって、処理の仕方が変わります。個人が借りている物件を法人に転貸する形でも対応できますが、契約形態ごとに注意点が異なるため、この部分は税理士への確認が必要です。
手順は3ステップで整理できる
ステップ1:自宅に事務所スペースを確保する
まず、「どこで仕事をしているか」を明確にします。書斎や一室を事務所として使っているなら、その実態を整理しておきましょう。机の配置、実際の使用状況が確認できる形にしておくと安心です。
ステップ2:間取り図で使用面積を按分する
家全体の床面積のうち、事務所として使っているスペースの割合を計算します。たとえば100㎡の自宅のうち50㎡を事業に使っているなら、按分率は50%です。間取り図を使って、客観的に説明できる数字を出しておくことが大切です。
ステップ3:法人が家賃相当額を経費計上する
按分率に基づき、法人が負担すべき家賃相当額を毎月計上します。個人契約の物件の場合は、社長個人から法人への転貸という形をとるケースもあります。契約書の整備も含め、税理士と一緒に進めるのがベストです。
「賃貸マンションだから無理」は思い込みかもしれない
「賃貸マンションだから転貸はできない」と考えている社長も多いのですが、不動産オーナーの許可が取れれば法人契約への変更や転貸も可能なケースがあります。
持ち家の場合は、法人が社長に家賃を支払う「社宅」の形を活用する手法もあります。
要するに、「自宅で実際に仕事をしている社長」には、何らかの形で経費化できる可能性があります。「うちは難しいだろう」と思い込む前に、一度税理士に確認してみることをおすすめします。
按分率の根拠は必ず残しておく
税務調査で最初に確認されるのが「按分の根拠」です。
「50%にしました」だけでは説明になりません。間取り図、使用スペースの写真、実際の業務内容の記録——こうした資料を揃えておくことで、調査があっても慌てずに対応できます。
特に按分率が高いほど(70%以上など)、根拠の説明が求められやすくなります。「合理的に説明できる数字」を意識して設定しておきましょう。
まだ自宅家賃を全額個人で払っているなら
月の家賃が10万円でも、50%を経費化できれば年60万円の損金です。法人税率を30%と仮定しても、年間18万円の節税効果があります。
こうした積み重ねが、10年・20年で大きな差になっていきます。
まだ自宅家賃を全額個人負担にしているなら、今期の決算前に税理士へ相談することをおすすめします。来期から適用できるかもしれません。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。