先日、顧問先の社長からこんな話を聞きました。「自宅で仕事してるから、家賃を全部経費にしてるよ」と。
聞いていると、契約は個人名義のまま、按分の根拠となる書類もなし。思わず「それ、全額否認されるかもしれませんよ」と伝えることになりました。
自宅家賃の経費化は、やり方さえ正しければ年間100万円超の節税になることもあります。ところが手順を間違えると1円も経費にならないどころか、過去の申告まで遡って否認されるリスクがあります。今回はその「正しいやり方」と「よくある落とし穴」をお伝えします。
按分すれば家賃の一部を経費にできる
自宅兼事務所として使っている場合、業務に使うスペースの面積割合に応じて家賃を按分し、その分を法人の経費にすることができます。
たとえば月30万円の家賃で、仕事スペースが全体の50%なら、毎月15万円・年間で180万円が経費として認められます。法人税率を30%前後とすると、実質的に50万円以上の納税額を減らせる計算です。
問題は、「やっている」と「正しくやっている」の間に、思った以上の差があることです。
全額否認される3つのNG
税務調査の現場でよく問題になるのが、次の3つのパターンです。
① 個人契約のまま、法人が家賃を払っている
社長個人が大家と賃貸借契約を結んでいて、その家賃を法人口座から払っているケース。法人が経費にできるのは「法人が借りた物件の家賃」だけです。個人の家賃を法人が肩代わりしても、それは経費ではなく社長への給付と見なされます。
「口座が法人だから大丈夫」と思っている社長が、実はアウトというケースが意外と多いです。
② 按分の根拠資料がない
「だいたい半分くらい仕事で使っている」では税務署は認めてくれません。間取り図や図面をもとに、どの部屋・どの面積を業務に使っているかを数字で示す書類が必要です。
根拠がなければ、金額が小さくても「主観的な配分」として否認されます。
③ 業務使用の実態がない
社内での打ち合わせが中心で、自宅で実際に業務をしていない場合も要注意です。経費はあくまで業務に関係した支出でなければなりません。実態が伴わない経費計上は、書類がどれだけ整っていても否認されます。
この3つのうち一つでも当てはまれば、全額否認のリスクがあります。残念ながら、三つ全部当てはまっているケースも珍しくありません。
正しいやり方は2点だけ整備すればいい
対策はシンプルです。
契約の整備
法人が大家と直接、賃貸借契約を結ぶのが最もわかりやすい方法です。それが難しい場合は、社長個人から法人への転貸借契約を書面で整備します。契約書があれば、家賃の支払いを法人の経費とする根拠になります。
按分比率の記録
間取り図を用意して、業務スペースと全体の面積を数字で示します。「書斎6畳・全体30畳なら按分比率20%」という形で計算根拠を文書化し、契約書と一緒に保管します。この書類は作成日が重要です。税務調査の場で「後から作ったのでは」と疑われないよう、最初から整備しておくのが鉄則です。
50%経費化は十分に現実的な目標
自宅の一室を専用の書斎・執務室にしている場合、20〜30%の按分が認められるケースが多いです。さらに会議や打ち合わせに使えるスペースがあれば、40〜50%まで認められることもあります。
大切なのは「実態があること」と「証拠があること」の両方が揃っていることです。実態があっても書類がなければ否認される。書類があっても実態がなければ否認される。この両輪が揃って初めて、経費として通ります。
今の契約書を一度確認してみてください
自宅家賃を経費にしている社長は多いですが、契約書と按分根拠を両方きちんと整えている社長は、意外と少ないのが現実です。
決算前でも今からでも遅くはありません。まず賃貸借契約が法人名義になっているかを確認して、なっていなければ転貸借契約の締結を検討してください。按分根拠の書類も、間取り図一枚から始められます。
顧問税理士がいれば、「自宅家賃の処理は正しいですか?」と一言確認するだけで、思わぬリスクを事前に防ぐことができます。今期中に一度、点検しておくことをおすすめします。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。