先日、ある社長からこんな相談を受けました。

「うちの奥さん、会社の経理を全部やってくれているんですが、役員報酬を払うと節税になりますか?」

これ、すごくいい質問です。そしてこの一言を聞いて、正直、もったいないと思いました。配偶者が実際に業務をしているのに、適切な報酬を払っていなければ、毎年大きな節税チャンスを逃し続けていることになるからです。

社長一人に報酬を集中させると、税率はどこまで上がるか

日本の所得税は「累進課税」という仕組みをとっています。簡単に言えば、稼げば稼ぐほど税率が上がっていく仕組みです。

課税所得が900万円を超えると税率は33%、1,800万円を超えると40%、そして4,000万円を超えると最大45%になります。住民税の10%を合わせると、最大55%が税金として持っていかれる計算です。

社長一人が年間3,000万円の役員報酬を受け取るケースと、社長2,000万円・配偶者1,000万円に分散したケースでは、適用される税率がまったく変わります。その差が、毎年の手取りに直結するのです。

所得を分散すると、具体的にどれくらい違うか

「税率差20%」という言葉を聞いたことがあるかもしれません。社長が33%の税率ゾーンにいるのに対し、配偶者が10〜15%のゾーンにいるとすれば、その差は20%前後になります。

1,000万円の報酬を分散した場合、単純計算で年間150〜200万円の節税効果が生まれます。各種控除の影響もありますが、年150万円超という数字は十分に現実的です。

一度設計してしまえば、毎年継続的に得られる節税効果です。今期から始めれば、5年で750万円以上の差になります。積み上がる金額を考えると、見逃せない話だと思いませんか。

家族を役員にするために、絶対に外せない条件

ただし、闇雲に配偶者や子どもを役員にすればいい、というわけではありません。税務調査で必ず問われるのが「実態」です。

求められるのは、実際に業務に関与しているかどうかです。経理処理、経営会議への参加、取引先との折衝、採用や労務管理など、具体的な職務があることが前提になります。また、報酬額がその業務内容に対して妥当かどうか、役員就任の手続き(株主総会議事録など)が整っているかも確認されます。

名前だけ役員にして報酬を払う「名義貸し」のやり方は、税務調査で否認されるリスクが高く、追徴課税を受けた事例も多数あります。形式ではなく実態を伴わせることが、この節税策を成立させる絶対条件です。

報酬額の設定にも、知っておくべき落とし穴がある

役員報酬は、事業年度開始から3ヶ月以内に決定し、その後は原則として変更できません(定期同額給与)。決算が近づいてから「やっぱり上げよう」と思っても、原則として損金算入が認められないのです。タイミングが重要です。

配偶者への報酬額を設定するときは、年収103万円・130万円・150万円などのラインも意識する必要があります。これらの金額によって、社会保険の扶養や配偶者控除の適用が変わってくるため、「高ければ高いほど得」というわけでもありません。

どの金額が最適かは、社長の報酬額、配偶者の他の収入、会社の経営状況によってまったく異なります。

まず「家族の業務を可視化する」ことから始めてみる

「うちは奥さんが事務作業を全部やってくれているけど、報酬を払うのは気が引けて……」という社長に、よくお会いします。

でも考えてみてください。同じ仕事を外部に頼めば、月20〜30万円の人件費がかかります。それを家族がやってくれているのであれば、正当な対価を払うのは当然ですし、法人として損金に算入できます。やらない理由のほうが見当たりません。

まず、配偶者や家族が実際にどんな業務をしているかをリストアップしてみてください。それが「実態」の証明にもなりますし、報酬額の根拠にもなります。

家族役員の活用は、複雑な節税スキームでも脱法行為でもありません。税法が認めた、王道の節税です。きちんと設計すれば、毎年安定した節税効果を得られます。まだ役員報酬の配分を見直していないなら、今期の決算前に顧問税理士と一度相談してみてください。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。