先日、年商10億円の製造業を経営する社長から、こんな相談を受けました。
「不動産や預金の相続対策は少しずつ進めているんですが、会社の株がどう扱われるのか、正直よくわからなくて」
これ、非常に多い声です。個人の資産だけを見て相続対策を進めている社長は、実はかなり大きな見落としをしている可能性があります。
自社株の「評価額」が税負担の核心にある
上場株であれば市場価格がそのまま評価額になりますが、法人オーナーが保有する非上場株式は違います。評価方法をどう選ぶかによって、課税額に大きな差が生まれます。
非上場株式の評価方法は、大きく2種類あります。
純資産価額方式は、会社の資産から負債を引いた純資産をもとに評価する方法です。不動産や現預金など、帳簿に載っている資産の価値がそのまま反映されやすく、評価額が高くなりがちです。
類似業種比準価額方式は、同業の上場企業の株価をベースに、配当・利益・純資産の3要素を比較して評価します。業種や利益水準によっては、純資産価額方式よりも評価額が低く出るケースがあります。
同じ会社の株が3割以上変わることがある
具体的な数字で考えてみましょう。
純資産価額方式で計算すると自社株の評価が5億円だったとします。これが類似業種比準価額方式では3億5,000万円になるケースがあります。評価額の差は1億5,000万円。相続税の最高税率は55%ですから、税額の差は数千万円規模になることも珍しくありません。
「同じ会社の株なのに、計算方法が違うだけでそんなに変わるの?」と驚かれる社長も多いです。でも実際、制度として認められた方法の選択次第で、これだけの差が出るのです。
会社の規模(大会社・中会社・小会社)によって適用できる方式や組み合わせのルールが異なります。自社がどのケースに当てはまるかは、専門家に試算してもらうのが確実です。
基礎控除と組み合わせると、さらに効く
相続税には基礎控除があります。「3,000万円+600万円×法定相続人の数」が控除されます。法定相続人が3人なら4,800万円、4人なら5,400万円まで非課税です。
株式評価の圧縮と基礎控除をうまく組み合わせると、課税対象となる財産全体を大幅に減らせます。自社株の評価額が1億円下がれば、それだけ課税財産が減り、実効税率も下がる。積み重なれば、億単位の節税効果につながることがあります。
「何もしない」が最もリスクの高い選択
注意が必要なのは、評価方法の選択は「自動的に有利なほうが選ばれる」わけではないという点です。何も手を打たずに相続を迎えると、純資産価額方式が適用されることがほとんどです。
また、評価額を下げるための設計は、一度の判断で終わるものではありません。利益水準の管理、配当設定の見直し、場合によっては持株会社の活用なども含めて、事業年度をまたいで計画的に取り組む必要があります。
さらに、恣意的な操作とみなされると税務調査でひっくり返されるリスクもあります。制度の範囲内で、しっかりとした根拠と記録を残しながら進めることが不可欠です。
今動くほど選択肢は広い
相続が現実的になってから動こうとすると、打てる手が限られます。逆に、今から取り組めば、評価圧縮の設計や承継計画の幅が大きく広がります。
まず「うちの株は今いくらの評価になるのか」を把握することから始めてみてください。事業承継に詳しい税理士に現状の試算を依頼するだけでも、見える景色が変わります。
「まだ先の話」と思っているうちに、選択肢は少しずつ狭まっていきます。今期中に一度、自社株の評価額を専門家に確認してみることをおすすめします。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。