先日、ある製造業の社長から電話をいただきました。「うちの株、今期の決算で5億を超えそうなんだけど、相続のこと何も考えていないんだよね」——そう言いながら、少し声のトーンが落ちていました。

株価5億円の会社を子どもに引き継がせる場合、相続税はざっくりいくらになるか。状況にもよりますが、数千万〜数億円規模の税負担が発生する可能性があります。それを一括で用意しろと言われたら、事業の継続そのものが危うくなる会社も少なくありません。

事業承継税制「特例措置」が特別な理由

実は、この問題を解決する制度が存在します。「法人版事業承継税制(特例措置)」です。

後継者への自社株の贈与や相続にかかる税金を、全額猶予してくれる制度です。株価5億円の会社であれば、数千万〜数億円規模の相続税・贈与税が猶予の対象になります。「猶予」ですから免除ではありませんが、事業を続ける限り実質的に税を先送りにできるというのは、資金繰りの観点から非常に大きな意味を持ちます。

通常の事業承継税制と何が違うのか。一言でいえば「猶予できる株の割合」です。通常措置では議決権株式の3分の2・評価額の80%相当しか猶予されませんでしたが、特例措置では**発行済株式の全部・税額100%**が猶予対象になります。これが「特例」と呼ばれる理由です。

タイムリミットが近づいている

ここで重要なのが、適用期限です。

この特例措置を使うには、「特例承継計画」を都道府県に提出する必要がありました。この提出期限が2026年3月31日——つまり、すでに終了しています。

今この記事を読んでいる方の中で、まだ提出していないという方は、残念ながら新規で特例措置を利用することはできません。

ただし、すでに特例承継計画を提出済みの方については、贈与・相続の実行期限として2027年12月31日まで猶予があります。「計画は出したが、まだ実際の承継手続きを進めていない」という方は、この期限内に動き出す必要があります。提出していながら何もしないまま期限を迎えることのないよう、今すぐスケジュールを確認してください。

適用できない会社もある

この制度、すべての会社に使えるわけではありません。代表的な除外例が「資産保有型会社」です。

簡単にいうと、事業実態がなく、有価証券や不動産などの資産を保有しているだけの会社は原則として対象外になります。不動産賃貸業のような形態をとっている会社や、総資産に占める事業用資産の割合が低い会社は注意が必要です。

また、適用後も継続要件があります。承継後5年間は、後継者が代表者であり続けること、雇用の8割以上を維持すること、株式を手放さないこと——これらを満たせなくなると、猶予された税金と利子税を一括で納付しなければなりません。「猶予が免除に変わる」と誤解している方も多いのですが、あくまでも条件付きの猶予です。

5年後、10年後に後悔しないために

事業承継は「そのうち考える」では間に合わなくなる典型的なテーマです。

特例承継計画の新規提出はすでに締め切られており、まったく同じ条件でこれから乗り込める制度ではなくなりました。ただ、提出済みの方にはまだ2027年末まで時間があります。また、国がこれほどの制度を用意していたということは、今後も何らかの形で後継者支援策が打ち出される可能性はあります。情報を追い続けることも大切です。

自社の株価がどれくらいか把握していない方は、まずそこから確認することをお勧めします。株価が高くなってから動き出すと、税額も準備期間も足りなくなります。

まだ事業承継について税理士と話したことがないなら、今期中に一度相談の場を設けてみてください。制度の有無にかかわらず、承継スキームを整理しておくことが、会社と家族を守る第一歩です。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。