先日、年商3億円ほどの印刷会社を経営する60代の社長から、こんな電話がありました。「そろそろ息子に会社を譲ろうと思っているんだけど、税金ってどれくらいかかるんだろう?」
会社の株式評価額は約1億2,000万円。何も手を打たなければ、後継者である息子さんには6,000万円を超える贈与税が発生する可能性がある状況でした。
「えっ、そんなにかかるの?」と社長は絶句していましたが、今の段階なら、まだ手の打ちようがあります。「事業承継税制の特例措置」を使えるからです。
特例措置なら、贈与税が最大100%猶予される
事業承継税制とは、中小企業のオーナーが後継者に株式を引き継ぐ際にかかる贈与税・相続税を猶予できる制度です。制度には「一般措置」と「特例措置」の2種類があり、一般措置の猶予上限が80%なのに対し、特例措置は最大100%になります。
株価1億円の会社を例にとると、通常の贈与では5,000万円を超える贈与税が発生するケースがあります。特例措置を活用すれば、この負担がほぼゼロになる可能性があります。一般措置との差だけでも数百万〜数千万円になることがあり、「どちらを選ぶか」ではなく「使うか使わないか」で、億単位の差が生まれることもあります。
2027年末の期限、さらに前倒しの壁がある
特例措置で贈与・相続を実行できるのは、2027年12月31日まで。これ自体はご存じの社長も多いのですが、もう一つ重要な期限を見落としているケースが目立ちます。
「特例承継計画」の提出期限が2027年3月31日だということです。
特例措置を使うには、事前に都道府県の認定機関へ特例承継計画を提出しておく必要があります。この計画書がなければ、2027年12月末ギリギリに贈与しても特例は適用されません。「株の贈与は年末でいい」と思っていたら、計画書の期限を見逃していたという事態になりかねないのです。
実質的なタイムリミットは、2027年3月です。
「うちは対象外では?」と思っているなら確認を
適用要件があることも事実です。主に気をつけるべき点をいくつか挙げておきます。
不動産や株式を主に保有・運用している「資産保有型会社」「資産運用型会社」は、原則として対象外です。また後継者が代表者として就任していることや、申告・書類管理を継続して行うことも求められます。猶予が取り消される要件に触れた場合は、猶予された税額を一括納付しなければならないリスクもあります。
ただし、「うちはどうせ対象外だろう」と自己判断するのは危険です。資産保有型の判定は計算が複雑で、専門家でないと見誤るケースが珍しくありません。一度税理士に確認してもらうだけで、選択肢が広がることがあります。
「まだ先の話」が一番のリスク
事業承継に関する相談を受けていて、毎回感じることがあります。「まだ急がなくていい」という感覚が、最大の敵だということです。
2027年3月まではまだ時間があるように見えますが、特例承継計画を作成して提出するには、現状の株価評価・後継者の要件確認・認定機関への申請と、複数のステップが必要です。丁寧に進めると半年はかかります。今から動いてちょうどいいタイムラインです。
先の印刷会社の社長は、電話の翌週に税理士との面談を設定しました。「早めに相談してよかった」とおっしゃっていましたが、もし1年後に相談に来ていたら、動ける選択肢は大幅に減っていたはずです。
後継者に会社を渡すことを少しでも意識しているなら、今すぐ税理士に「事業承継税制の特例、うちは使えそうですか?」と一言聞いてみてください。その確認が、億単位の差を生むことがあります。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。