「もう少し稼げるようになったら法人化を考えようと思っているんですが、今はまだ早いですよね?」

先日、フリーランスのWebデザイナーをしているSさんからそんな相談を受けました。年間の売上は約1,500万円、利益は約1,000万円。「まだ早い」というSさんの感覚、実は大きな節税チャンスを見逃しているかもしれません。

個人事業主のまま稼ぐと、税金はどこまで上がるのか

個人事業主として所得が増えると、所得税の税率は段階的に上がっていきます。課税所得が900万円を超えると33%、1,800万円を超えると40%、4,000万円を超えると45%。そこに住民税10%が加わると、最大で55%という税率になります。

Sさんの場合、利益1,000万円だと課税所得がおよそ700〜800万円前後(各種控除後)になることが多く、所得税率は23〜33%の範囲に。住民税を含めると実質33〜43%程度の税率がかかってくる計算です。

稼げば稼ぐほど、税金で持っていかれる割合が大きくなる。個人事業主にとっては、ある意味で「成功の罰」のような仕組みです。

法人化するとどう変わるのか

中小法人の法人税の実効税率は、国税・地方税を合わせておよそ22〜25%程度です。個人の最高税率55%と比べると、30%以上の差があります。

でも「法人化して会社に利益を残すだけじゃ、自分の生活費が出せない」と思いますよね。ここで重要になるのが役員報酬という仕組みです。

法人化すると、社長である自分への給与(役員報酬)を会社の経費として計上できます。個人事業では「自分への給与は経費にならない」のに対して、法人では「社長への給与も経費」になる。この違いが節税の核心です。

年間利益1,000万円のケースで数字を見てみる

少し具体的に比べてみましょう。個人事業主として利益1,000万円を得た場合と、法人化して役員報酬を800万円に設定した場合の試算です。

個人事業主のまま(利益1,000万円)

  • 所得税+住民税:約350〜380万円
  • 国民健康保険:約70〜90万円
  • 合計:約420〜470万円

法人化した場合(役員報酬800万円、残り200万円を法人留保)

  • 個人の所得税+住民税:約180〜200万円
  • 社会保険料(健康保険・厚生年金):約110〜130万円
  • 法人税(200万円の利益部分):約45〜50万円
  • 合計:約335〜380万円

試算の幅はありますが、概算で100〜150万円程度の節税効果が出ることも珍しくありません。Sさんが驚いた理由がわかりますよね。

法人化すれば必ず得をするわけではない

ただし、「すぐに法人化しよう!」と飛びつくのは禁物です。

法人化には維持コストがかかります。税理士への顧問料・決算料、社会保険の会社負担分(報酬の約15%)、登記費用、法人住民税の均等割(赤字でも年7万円程度)などを合計すると、年間30〜50万円以上の固定コストが発生するのが一般的です。節税メリットが50万円でも、維持コストが50万円なら±ゼロです。

また、節税額は以下の要素で大きく変わります。利益の規模(一般的に年間利益700〜800万円を超えたあたりから検討価値が出てくる)、家族への役員報酬が可能かどうか(配偶者や親族に仕事を手伝ってもらっていれば節税効果がさらに広がる)、業種や経費の構造などです。

Sさんのケースはちょうど「一度シミュレーションしてみる価値がある」規模でした。

家族に役員報酬を出せるなら、さらに効果は大きい

もし奥さんや親族に仕事を手伝ってもらっている場合は、その方にも役員報酬を支払うことで節税効果がさらに広がります。家族それぞれに給与所得控除が適用されるため、一人で稼ぐよりも世帯全体の手取りを増やしやすくなります。

たとえば、配偶者に年間100万円の役員報酬を設定した場合、所得税はほぼゼロで、法人側では100万円が経費になります。こうした積み上げが、最終的に大きな節税につながるのです。

「もう少し大きくなったら」が一番損をする

法人化を先延ばしにする理由としてよく聞くのが、「手続きが面倒」「まだ規模が小さい」「売上が安定してから」という声です。でも実際には、適切なタイミングで法人化しなかったことで、数年間で数百万円を余分に納税していたケースも少なくありません。

節税の機会損失は、取り返しがつきません。「まだ早い」ではなく「今の利益規模で一度シミュレーションしてみる」という姿勢が、賢い経営判断だと思います。

年間利益が700万円を超えてきたなら、まず税理士に法人化シミュレーションを依頼してみてください。その一回の相談が、今後の手取りを大きく変えるかもしれません。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。