先日、ある製造業の社長から、こんな相談を受けました。

「息子に会社を引き継がせたいんだけど、相続のとき税金がいくらかかるか調べたら、とんでもない金額で……」

その会社の株式評価額は約5億円。相続税の最高税率は55%ですから、理論上は2〜3億円規模の相続税が発生します。現金で払えるわけがない。そうなると、株式を手放して税金を払うしかない。つまり、一生をかけて育てた会社が、相続の瞬間に他人の手に渡るかもしれない、ということです。

その社長の表情が、話しているうちにみるみる曇っていくのを今でも覚えています。でも私は、「大丈夫ですよ」と言いました。この問題を解決する制度が、すでに存在するからです。

事業承継税制の「特例措置」で、税金が丸ごと猶予される

事業承継税制は、非上場の中小企業が後継者に株式を引き継ぐ際、本来かかる贈与税・相続税を「猶予」してくれる制度です。2009年から始まりましたが、2018年の税制改正で「特例措置」が加わり、一気に使いやすくなりました。

従来の一般措置では猶予される税額に上限がありましたが、特例措置では株式の全部に対する税額が100%猶予されます。冒頭の社長の例で言えば、2〜3億円の相続税が丸ごと猶予される、ということです。

そして重要なのが期限です。この特例措置が使えるのは、2027年12月31日まで。今から約1年半しかありません。

「猶予」は最終的に「免除」になる

「猶予って、結局いつか払うんでしょ?」と思う方もいます。でも実際には、一定の要件を満たし続ければ、猶予された税額は最終的に免除されます。

後継者が代表として経営を続け、次の世代に株式を引き継いだ場合、猶予額がそのまま免除になります。後継者が亡くなった場合も同様です。きちんと事業を存続させれば、相続税の支払い義務そのものが消える、ということです。

払い続ける猶予ではなく、最終的にゼロになる猶予。ここが事業承継税制の本質的な価値です。

どんな会社が対象か ── 要件の基本を押さえる

特例措置を使うための要件は、会社側と後継者側の両方にあります。

会社側では、中小企業基本法上の中小企業であること、非上場であること、資産保有型会社(不動産や有価証券を持っているだけの会社)でないことなどが主な条件です。

後継者側では、贈与・相続を受けた時点で会社の代表者であること、同族関係者の中で最も多くの株式を保有していることなどが求められます。

もうひとつ見落とせないのが、「特例承継計画」の提出期限です。この計画書を2026年3月31日までに都道府県に提出しておく必要があります。2027年の特例措置期限より1年以上早い。ここを知らずに動いていない会社が、まだかなりあります。

「うちは関係ない」が一番危ない

「うちの株価はそんなに高くないから大丈夫」と思っている社長も多いです。でも、中小企業の株価は意外と高くなりやすいものです。

非上場株式の評価は「類似業種比準方式」や「純資産価額方式」で計算しますが、業績が好調な会社ほど株価が高く出る傾向があります。ここ数年の業績回復で、気づかないうちに株価が跳ね上がっていることも珍しくありません。

「うちの株なんて大したことない」と思って放置していたら、実際に相続が発生したとき億単位の税額が出てきた、というのはよくある話です。まず現状の株価評価を確認するだけで、リスクの輪郭が見えてきます。

今動かないと、間に合わない

2027年12月末という期限は、ぼんやり聞いていると「まだ先」に感じます。でも実際には、特例措置を使い切るまでに1〜2年の準備期間が必要なケースが大半です。

後継者を決め、株式移転のスキームを組み、特例承継計画を作成・提出し、贈与や相続のタイミングを調整する。これを計画的に進めるには、税理士や弁護士と早めに連携して動く必要があります。

「来年考えよう」と先延ばしにするうちに期限が来てしまった社長を、私は何人も見てきました。

まず「うちの株価はいくらか」「後継者を誰にするか」「特例措置の要件を満たしているか」の3点だけでも確認してみてください。その確認が、億単位の税金を消す第一歩になるかもしれません。顧問税理士への相談は、早ければ早いほど選択肢が広がります。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。