先日、IT系の会社を経営する社長から、こんな話を聞きました。
「毎月20万円の家賃を個人口座から払い続けているんですが、これって会社の経費にならないんですかね」
結論から言うと、なります。「社宅制度」を正しく使えば、社長の自宅家賃の大部分を会社の損金として落とすことができます。知らずに個人払いを続けているなら、毎年かなりの金額を損している可能性があります。
仕組みはシンプルです
会社が物件のオーナーと直接賃貸借契約を結び、その部屋を社長に転貸します。社長は会社に対して「賃貸料相当額」と呼ばれる最低限の金額を支払うだけでよく、実際の家賃との差額が丸ごと法人の経費になるという仕組みです。
月15万円の家賃を例にとると、個人払いであれば手取りから15万円がそのまま消えます。社宅制度を活用した場合、条件によっては社長の自己負担が月2〜3万円台に収まることもあります。差額の12万円以上が毎月会社の経費になり、年間で150万円近い節税効果が生まれるケースも珍しくありません。
自己負担額は国税庁の通達で決まる
社長がいくらを会社に払えばよいかは、法人税基本通達9-4-1が定める「賃貸料相当額」が基準になります。感覚で決めていい金額ではなく、きちんと計算式があります。
一般的な賃貸マンション(小規模住宅:木造なら132㎡以下、RC造なら99㎡以下)の場合、以下の3つを合計した金額が賃貸料相当額の目安です。
- 固定資産税課税標準額 × 0.2% ÷ 12
- 12円 × 床面積(㎡)÷ 3.3
- 固定資産税課税標準額 × 0.22% ÷ 12
課税標準額800万円、床面積70㎡のマンションで計算すると、賃貸料相当額は月2万5,000円前後に収まることもあります。家賃が15万円の物件であっても、自己負担はその6分の1以下、ということが起こり得るわけです。
この課税標準額は、物件の市区町村役所で「固定資産評価証明書」を取得すれば確認できます。
ここを間違えると逆効果になります
社宅制度には、一つ大きな落とし穴があります。
社長の自己負担額が「賃貸料相当額」を下回ると、その差額は役員への経済的利益、つまり「役員給与」とみなされます。役員給与は、事前確定届出などの要件を満たさない限り損金になりません。節税しようとして、かえって課税リスクを抱えることになります。
また、高級マンションや広い戸建て(大規模住宅・豪華社宅)に該当する場合は計算方法が変わり、時価相当額が自己負担の基準になります。こうなると節税効果はほぼなくなるため、どの物件が対象になるかは事前に確認が必要です。
もう一点、よくある誤りが「契約は個人名義のまま」というケースです。社宅制度が成立するには、賃貸借契約の名義が会社でなければなりません。個人契約のまま家賃を会社に立て替えてもらうだけでは、制度として認められません。
切り替えのタイミングと手順
社宅制度への移行は、次の引っ越しや契約更新のタイミングが自然です。既存の契約を会社名義に切り替える場合は、物件オーナーの同意が必要になります。
基本的な手順はこのような流れです。
- 会社とオーナーが賃貸借契約を締結する
- 会社と社長の間で転貸借契約を交わし、自己負担額を明記する
- 社長が毎月、賃貸料相当額を会社に支払う
- 固定資産評価証明書を取得し、賃貸料相当額を正確に計算する
計算を誤ると役員給与認定のリスクが生じるため、固定資産税の課税標準額の確認と計算は、必ず税理士と一緒に進めることをおすすめします。
まだ個人払いなら、今期中に動いてください
社宅制度は、正しく設計すれば毎年100万円以上の節税につながる打ち手です。生活スタイルを変える必要はなく、契約の名義と支払いの流れを変えるだけです。特別な初期費用も不要です。
もし今も家賃を個人の口座から直接払い続けているなら、今期の決算前に税理士へ相談してみてください。知っていて使わないのは、ただの機会損失です。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。