先日、顧問先の社長からこんな相談を受けました。「節税はしているつもりなんですが、なぜか手元にお金が残らないんです」と。
決算書を一緒に確認してみると、確かに法人税の負担は適切に抑えられていました。でも、社長個人の財布はなぜか潤っていない。ここに、多くの経営者が陥りやすい「節税の落とし穴」があります。
法人税を減らしても、社長の手取りが増えるとは限りません。会社にお金が残っても、社長個人に届くまでには給与所得税や社会保険料という壁があります。手取りを増やしたいなら、節税より先に「制度をフル活用すること」が先決です。
今回は、多くの中小企業オーナーがまだ手をつけていない3つの方法をお伝えします。
3位:経費のモレをなくす
手始めに見直したいのが、経費化できているはずのものが個人払いになっていないか、という点です。
スマートフォン、自動車、接待・交際費——これらを「自分のものだから」と個人で払い続けている社長は少なくありません。でも業務で使っているなら、会社経費として処理するのが原則です。
スマホは法人契約に切り替えるか、個人契約のまま業務割合分を会社から補助する仕組みにするだけでいい。月1〜2万円が私費から消えます。自動車は商談や訪問で使っているなら社用車として法人名義にするか、リースを活用する方法があります。
交際費も、相手・目的・金額を記録することで経費化できます。ここで大事なのは「後から記録を作る」ではなく、その場でメモを残す習慣をつけること。税務調査で問われたときに説明できるかどうかが分かれ目です。
一つ一つは小さく見えても、モレをなくすと月3〜5万円の改善になることが多いです。
2位:役員社宅
少し大きな改善が見込めるのが、役員社宅の活用です。
仕組みは単純で、会社が賃貸物件を借りて、社長に転貸します。社長が会社に支払う家賃は、国税庁の定める計算式で算定した「賃料相当額」だけ。この金額が、実際の家賃の1〜2割程度になることが珍しくありません。
たとえば月20万円の物件を役員社宅にした場合、社長が会社へ払う賃料が月3〜4万円で済むケースがあります。差額の16〜17万円は実質的な手取り増です。しかも、この差額は給与扱いにならないため、所得税も社会保険料もかかりません。
注意点は、賃料相当額の算定を正しく行うことです。国税庁の通達に定められた計算式があり、床面積や固定資産税評価額をもとに算出します。「適当な金額を設定した」「相場より明らかに低い」といった場合は、差額が給与として課税されるリスクがあります。
導入前に税理士と一緒に計算を確認することが、この制度を安全に使う条件です。
1位:旅費規程の整備
3つの中でもっともインパクトが大きいのが、旅費規程、特に「出張日当」の活用です。
出張日当とは、出張にともなう実費弁償として会社から支給される手当のことです。そして最大の特徴は、所得税の課税対象外である点。給与は手取りになるまでに所得税・住民税・社会保険料が引かれますが、日当は全額そのまま手取りになります。
仮に日当5,000円で月に20日出張する社長なら、月10万円が非課税で受け取れます。年間120万円です。同じ金額を給与として受け取ろうとすれば、税引き前で170〜200万円が必要な計算になります。旅費規程を整えるだけで、その差が生まれます。
整備するのも難しくありません。「出張地域ごとの日当金額」「交通費の支給方法」「精算ルール」を文書化するだけ。ひな形をもとに半日もあれば作れます。
ただし、「実態のない出張で日当を出す」「明らかに相場を超えた金額設定」といった場合は、税務調査で否認されるリスクがあります。実際の業務実態に見合った金額設定と記録管理が必要です。
3つ合わせると月20万円を超える
整理すると、3つの改善でどれくらいの効果が出るでしょうか。
- 経費化モレの修正:月3〜5万円
- 役員社宅の活用:月10〜17万円
- 旅費規程の整備:月10万円以上
合計で月20〜30万円の手取り改善になることも、十分あり得る話です。
これらは節税でも抜け穴でもなく、税法上認められた制度をきちんと使うだけです。「やっていない」こと自体が、毎月損をし続けている状態とも言えます。
もし旅費規程をまだ整備していないなら、今期中に着手しておくことをおすすめします。作るのに大きなコストはかかりません。でも整えることで、毎月の手取りが確実に変わります。できることを先送りにするのが、一番もったいない機会損失です。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。