先日、知人の製造業の社長から夜中に連絡が来ました。「父親が入院して、相続のことを何も考えていなかった。税理士に試算してもらったら、想像以上の数字で頭が真っ白になった」と。
財産は自社株、自宅、預金を合わせて約3億円。試算された相続税は約7,000万円。「そんなキャッシュ、すぐに出せない」という声が、受話器越しに震えていました。
同じ3億円でも、4,000万円の差が生まれる
実は、10年前から計画的に動いていた社長であれば、同じ財産3億円でも相続税を3,000万円台に抑えることができます。差額は実に4,000万円。この差は「運」でも「特別なコネ」でもなく、ただ「早く動いたかどうか」だけで生まれます。
相続税の仕組みをざっくりおさえておきましょう。財産の総額から基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人数)を引いた残りに累進税率がかかります。法定相続人が2人なら基礎控除は4,200万円。財産3億円なら課税対象は約2億5,800万円になり、税率をかけると6,000万〜7,000万円規模になります。
さらに厄介なのは「いつ払うか」です。相続税は原則、相続発生から10ヶ月以内に現金一括払い。自社株や不動産が財産の大半を占める社長ほど、いざというときにキャッシュが足りなくなります。
準備した社長が使っていた3つの手
では、相続税を大幅に抑えた社長たちは何をしていたのか。代表的な手が3つあります。
① 暦年贈与(年間110万円の非課税枠を使い倒す)
贈与税には年間110万円の基礎控除があります。子ども2人に毎年110万円ずつ贈与すれば、10年間で合計2,200万円を非課税で移せます。相続財産そのものを減らすので、税率がかかるベースが下がる。シンプルですが効果は大きい。
ただし、2024年の税制改正でここに大きな変化がありました。従来は「死亡前3年以内の贈与」が相続財産に加算されていましたが、改正後は段階的に7年以内まで延長されます。つまり、贈与を始めても7年間は「猶予期間」があるわけで、早く始めるほど有利になる構造です。
② 生命保険の非課税枠(500万円×相続人数)
死亡保険金には「500万円×法定相続人数」の非課税枠があります。相続人が2人なら1,000万円が非課税。現金をそのまま持っておくより、保険に変えておくだけで課税対象が最大1,000万円減ります。受取人を指定できるので資産の分配もスムーズになる。コストに対する効果が高い対策の一つです。
③ 小規模宅地等の特例(土地評価を最大80%減額)
自宅や事業用の土地には「小規模宅地等の特例」があります。要件を満たせば、土地の評価額を最大80%引き下げることができます。1億円の土地が評価上2,000万円になるイメージです。ただし、誰が相続するか、申告期限まで住み続けるかなど要件が細かいため、事前に確認しておくことが必要です。
「2024年改正」が動き出す合図になった
この改正を機に、「急いで相談したい」という社長が増えました。贈与の加算期間が延びるということは、今すぐ動き出さないと使えた対策が使えなくなる、という意味でもあるからです。
特に50代〜60代前半の社長は「まだ先の話」と思いがちです。でも10年のスパンで動ける人と、残り3年しかない人では、根本的に使える手が違います。10年あれば暦年贈与だけで数千万円を無税で移せます。7年を切ると、そのメリットが半減します。
「いつかやろう」が一番高くつく
冒頭の社長の話に戻ります。お父様はまだ入院中で、相続はまだ発生していません。でも「今から使える対策はほぼない」というのが現実です。贈与を始めても加算期間が残り、保険の加入も健康状態次第では難しい。時間が失われると、選択肢も失われます。
一方、今この記事を読んでいるあなたはまだ間に合います。
最初の一歩は難しくありません。まず税理士に「現状の財産で、何も対策しなければ相続税はいくらになるか」を試算してもらうだけでいい。数字を見ると、人は動けます。「うちは関係ない」と思っていた社長も、試算を見て翌月から暦年贈与を始めたというケースは珍しくありません。
早く始めた社長だけが、4,000万円の差を手にできます。今期中に、一度試算だけでもしてみてください。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。