先日、年商3億円ほどの建設業を営む60代の社長と話す機会がありました。「会社もそれなりに育ってきたし、そろそろ息子に継がせようかと思ってる」と嬉しそうに話してくれました。
ただ、相続や生前対策の話になると「それはまだ先の話でしょ」と笑って流されてしまいました。
その笑顔が少し心配になったのは、その社長の資産規模が相続税の基礎控除をゆうに超えていたからです。自社株式、不動産、預貯金を合計すると軽く2億円を超えていました。
「うちは関係ない」と思っている社長ほど危ない
相続税の基礎控除は「3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数」です。法定相続人が妻と子ども2人の合計3人なら、4,800万円を超えた分に課税されます。
サラリーマン家庭なら収まることも多いですが、中小企業の社長は違います。自社の株式だけでも数千万〜数億円に達することがある。不動産、預貯金、生命保険金を合わせると、相続税の課税対象になるケースは決して珍しくありません。
しかも、こういった社長の多くが「相続対策は引退後でいい」と後回しにしています。それが最大の落とし穴です。
2024年改正で「のんびり構え」が通用しなくなった
生前対策を早く始めるべき理由が、2024年の税制改正でさらにはっきりしました。
暦年贈与(年間110万円以内の非課税贈与)のルールが変わり、相続前に課税対象へ加算される期間が従来の「3年」から**「7年」**に延長されたのです。
たとえば70歳から贈与を始めたとして、77歳以前に亡くなると、その間の贈与のほとんどが相続財産に加算されてしまう可能性があります。早く始めるほど有利、これが今の相続対策の鉄則です。
社長が実行すべき生前対策3ステップ
では具体的に何をするべきか。効果の大きい順に3つ挙げます。
ステップ① 生命保険で非課税枠を最大限に使う
生命保険の死亡保険金には「500万円 × 法定相続人の数」という非課税枠があります。法定相続人が3人なら1,500万円、4人なら2,000万円が非課税で受け取れます。
現金をそのまま遺すと全額が課税対象になりますが、生命保険に変えることで課税財産を圧縮できます。しかも保険金は遺産分割の対象外になるため、相続トラブルの防止にも一役買います。
保険料を一括で払う「一時払い終身保険」を使う方法もあります。健康状態の審査があるため、加入は早いに越したことはありません。
ステップ② 暦年贈与を今日から始める
毎年110万円以内の贈与は非課税です。子ども2人に毎年各110万円ずつ贈与すれば、10年で2,200万円を無税で渡せます。
2024年改正後も基本的な仕組みは変わっていませんが、「7年加算」の影響で始めるタイミングが非常に重要になりました。「来年からでいいか」という姿勢は禁物です。
また贈与の実態が伴っていないと「名義預金」とみなされることがあります。銀行振り込みで証跡を残す、贈与契約書を毎年作成する、受け取った側が実際にその口座を管理するといった形式面もきちんと整えましょう。
ステップ③ 自社株の評価を下げ、事業承継税制を活用する
社長の財産の中で、もっとも課税額に影響するのが自社株式の評価額です。業績が伸びれば伸びるほど株価も上がり、相続税が増えるという皮肉な構造があります。
評価を下げるには、役員退職金の支給による純資産の圧縮や、含み損のある資産の整理などが有効です。決算前に手を打てるかどうかが鍵になります。
さらに事業承継税制を活用すれば、後継者が自社株を引き継ぐ際の贈与税・相続税が猶予され、一定の要件を満たせば最終的に免除になるケースもあります。手続きが複雑なため専門家の関与は必須ですが、対象企業にとっては非常に強力な制度です。
「元気なうちに動く」が最大のアドバンテージ
相続対策の多くは、本人が元気で判断能力がある状態でないとできません。遺言書の作成、贈与の実行、生命保険の加入——これらはすべて、意思表示がはっきりできるうちでなければ進められません。
認知症になってしまうと財産の動きが止まります。何も手を打てないまま相続が発生すると、残された家族が重い税負担を背負うことになります。
「うちはまだ早い」ではなく、「うちはもう始めるべき時期に来ている」という意識で、今期中に一度、相続専門の税理士に相談してみることをおすすめします。話を聞いた途端に青ざめる社長は、珍しくありません。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。