先日、建設業を営む60代の社長から、こんな相談を受けました。
「そろそろ息子に会社を任せようと思っているんだけど、相続になったらどれくらい税金がかかるの?」
試算してみると、自社株込みで資産が約5億円。基礎控除は3,000万円+法定相続人2人分の1,200万円、合わせて4,200万円を差し引いても、約4億6,000万円が課税対象になります。税率は最高55%。実際には段階的に課税されますが、それでも相続税の総額は1億円を大きく超える試算でした。社長は思わず「そんなにかかるとは…」と絶句されていました。
「老後になってから考えよう」では間に合わない
多くの社長が相続対策を後回しにするのは、「まだ元気だし早い」という感覚があるからだと思います。でも、2024年から贈与ルールに大きな変更が加わりました。
これまでは亡くなる3年前までの贈与が相続財産に加算されていましたが、2024年1月以降の贈与から、この期間が7年に延長されました。つまり、70歳を超えてから慌てて贈与を始めても、その多くが相続財産に引き戻されてしまうのです。
逆に言えば、今すぐ動き出せば7年分の贈与をそっくり非課税で移転できます。始めるのが早いほど選択肢は広がり、遅れるほど選択肢が消えていく。相続対策はまさに時間との勝負です。
ステップ1:毎年110万円の暦年贈与を今すぐ始める
最もシンプルで確実な対策が、暦年贈与です。贈与税の基礎控除は年間110万円。これを毎年コツコツ家族へ渡し続けることで、非課税のまま資産を移転できます。
たとえば子ども2人・孫2人の計4人に毎年110万円ずつ贈与すると、年間440万円が非課税で動きます。10年続ければ4,400万円。課税対象を圧縮する効果は非常に大きいです。
ただし「定期贈与」と見なされないよう注意が必要です。毎年同額・同日に機械的に振り込むと、「最初から全額を贈与する約束だった」と税務署に判断されるリスクがあります。金額や時期を少し変え、毎年贈与契約書を作成しておくのが安心です。
ステップ2:生命保険で非課税枠をフル活用する
意外と見落とされがちなのが、生命保険の非課税枠です。死亡保険金は相続財産になりますが、「500万円×法定相続人の数」まで相続税がかかりません。法定相続人が3人であれば、1,500万円が丸ごと非課税になります。
さらに、受取人を指定できるため、誰にいくら渡すかを生前に決めておけます。不動産や非上場株式のように「分割しにくい財産」をめぐるトラブルも起きにくく、相続人間の争いを防ぐ意味でも有効な手段です。
保険料の支払い方や契約形態によって税務上の扱いが変わるため、設計は税理士や保険の専門家と一緒に行うのがベストです。
ステップ3:自社株を計画的に後継者へ移す
会社を持つ社長にとって最大のリスクが、自社株の相続です。会社が成長するほど株価も上がり、そのまま相続が発生すると莫大な税負担になります。資産の大半が自社株という社長も少なくありません。
対策の基本は、在籍中から少しずつ後継者へ自社株を移していくことです。贈与と売買を組み合わせながら計画的に承継するのが王道です。また「事業承継税制」を活用すれば、一定の要件を満たした場合に贈与税・相続税の納税が猶予(最終的には免除)される制度もあります。
ただし、この制度は申請手続きが複雑で、要件を外れると猶予が取り消されるリスクもあります。「使えそう」と思ったら、早い段階で専門家に相談することが欠かせません。
まだ間に合う。でも今日から動いてほしい
贈与の加算期間が7年になった今、相続対策のベストタイミングはどんどん前倒しになっています。「60代ならまだ余裕」と感じていても、使える時間は確実に減っています。
3つのステップのうち、どれか1つでも今期中に着手できれば、10年後に大きな差として返ってきます。まずは顧問税理士に現状の資産規模と家族構成を伝えて、シミュレーションを依頼してみてください。「うちはまだ大丈夫か」ではなく、「うちは今すぐ動くべきか」を確認する一歩が、相続税ゼロへの出発点になります。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。