先日、年商5億円の製造業を経営する60代の社長から、こんな相談を受けました。

「顧問の税理士に試算してもらったら、自分が亡くなったときの相続税が8000万円を超えると言われた。そんなお金、いったいどこから出せばいいんだ」

その社長は、長年かけて会社の資産を積み上げ、従業員を守ってきた人でした。でも、自分が亡くなった後に後継者が数千万円単位の納税を迫られるとは、考えたこともなかったようでした。

自社株の評価が高いほど、相続税は重くなる

中小企業の社長の財産の大半は、自社株が占めていることが多いです。会社の業績が上がり、純資産が積み上がるほど、株の評価額も比例して上がっていきます。

年商5億円クラスの会社では、その評価に相続税率をかけると8000万円を超えることも珍しくありません。しかも相続税は個人の財産から現金で納める必要があるため、会社にいくら資産があっても直接は使えません。

後継者が急に数千万円を工面しなければならない——これが「自社株の相続」の本当のリスクです。

事業承継税制を使えば、納税が実質ゼロになる

この問題を正面から解決できるのが、「事業承継税制(非上場株式等についての相続税・贈与税の納税猶予制度)」です。

仕組みはシンプルです。後継者が先代から自社株を引き継ぐ際、本来かかるはずの贈与税・相続税の納付を「猶予」してもらえます。そして一定の要件を満たして事業を継続する限り、最終的にその猶予分が免除され、実質ゼロになります。

8000万円の相続税が発生する株でも、事業承継税制を活用して後継者がきちんと事業を引き継ぎ続ければ、税金そのものが消えていく可能性があるということです。

特例措置は2027年12月末が申請期限

事業承継税制には「一般措置」と「特例措置」の2種類があります。特例措置のほうが格段に有利です。

一般措置では猶予対象が議決権株式の3分の2まで・猶予割合は80%が上限なのに対し、特例措置では発行済株式の全部・猶予割合100%が適用できます。8000万円なら8000万円、まるごと猶予の対象になります。

ただし、この特例措置を使うには条件があります。2027年12月31日までに「特例承継計画」を都道府県知事に提出していることが必須です。

計画を提出してから実際に株を移転するのは、それ以降でも間に合います。ただ、計画の作成には税理士との協議や書類準備で数ヶ月かかることもあるため、「来年でいいか」という感覚は禁物です。

知らないまま相続が発生したケース

制度を知らないまま相続が起きた場合、話はかなり深刻になります。

相続税の申告・納税期限は「相続開始を知った日から10ヶ月以内」です。突然8000万円の納税通知が届いて、個人資産だけでは賄えない場合、事業用資産を売却するか、最悪は廃業を検討せざるを得なくなります。

「相続が起きてから制度の存在を知った」というケースでは、申請できないこともあります。事後対応が難しい制度だからこそ、知っているうちに動いておくことが大事です。

まず確認すべきポイント

事業承継税制の適用には一定の要件があります。主なポイントを整理しておきます。

  • 対象が中小企業であること(資本金・従業員数の基準あり)
  • 先代経営者から後継者への引き継ぎであること
  • 後継者が一定期間、代表として事業を継続すること
  • 特例承継計画を2027年12月31日までに提出すること

「うちは当てはまるか」という確認だけでも、早めに専門家に相談することをおすすめします。


冒頭の社長の話に戻ると、その方はその後、事業承継に詳しい税理士と協力して特例承継計画を作成し、相続税の負担をほぼゼロに抑えられる目処が立ちました。

60代に入ったら、「まだ先の話」ではなく「今動くべき話」として事業承継を考え始めてください。2027年末という期限は、思っているより早くやってきます。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。