先日、顧問先の社長から「調査が終わりました」という電話が入りました。ひと言で言えば、「150万円の追徴」という結果でした。電話越しに「もっと早く対策しておけばよかった」という言葉が、ずっと耳に残っています。
この社長は、悪意があったわけではありません。年商3億円を超える製造業のA社長は、自分なりに経費の管理をしていた「普通の経営者」です。それでも税務調査で経費を否認されてしまいました。否認されたのは3つのパターン。どれも「知っていれば対策できた」という内容だったので、今回は具体的にご紹介します。
① 家族役員報酬——業務実態の証明が鍵
A社長は奥様を取締役として登記し、月30万円の役員報酬を支払っていました。経理のサポートや電話応対、社内の調整役として実際に動いてもらっていたといいます。
ところが調査官に「具体的にどんな業務をしているか」「週に何時間働いているか」と聞かれたとき、A社長はうまく答えられませんでした。議事録もなく、業務日誌もなく、報酬の決定過程も曖昧なまま。調査官はそれを「業務実態なし」と判断し、役員報酬は年間360万円が全額否認されました。
家族への役員報酬は節税効果が高い反面、リスクも高い手法です。最低限、①役員就任の経緯と業務内容を記録した議事録、②日常的な業務の記録(メールのやりとり、日報など)、③報酬額の根拠——この3点を整備しておくことが必要です。「形だけの役員」と判断されてしまうと、かなり厳しい結果になります。
② 自家用車の事業割合——「100%申告」の落とし穴
会社名義の車をプライベートでも使っていたA社長は、申告上は「事業利用100%」として車両関連費用を全額損金処理していました。
調査官がガソリン代の明細と走行距離を突き合わせ、週末の走行パターンを確認したところ、プライベート利用が明らかになりました。最近ではSNSの投稿(家族ドライブの写真など)まで確認されることがあります。結果として、事業割合100%の申告は崩れました。
この種のリスクを防ぐには、走行記録(日付・行き先・目的・走行距離)をきちんとつけることです。完全にプライベートと切り離せないなら、実態に即した割合(たとえば70〜80%)で申告するほうが、調査に対して説明しやすくなります。「100%です」と主張するなら、それを証明できる記録が必要です。記録なしに「全部仕事で使っています」は通りません。
③ 交際費——領収書の「名前と目的」が命綱
A社長の交際費には大きな問題がありました。領収書があるにもかかわらず、「誰と」「何のために」の記載がほぼなかったのです。
交際費として損金算入するには、相手の氏名・会社名、飲食の目的、参加人数などを記録することが求められます。2024年の税制改正で、1人あたり5,000円以下の飲食費を交際費から除外できる特例の適用条件が変わりましたが、この特例を受けるためにも記録は必須です。記載がなければ特例の適用ができず、すべて交際費として損金算入限度額の計算に含まれてしまいます。
解決策はシンプルです。領収書をもらったその日のうちに、メモ欄か裏面に「誰と(会社名・氏名)」「何のために(商談、情報交換など)」を書いておく。それだけです。スマートフォンで写真を撮って管理するなら、撮影時にコメントを入れる習慣をつけると完璧です。
150万円が教えてくれたこと
A社長が支払った150万円には、本来の追加税額だけでなく、過少申告加算税や延滞税が含まれています。「知らなかった」「悪気はなかった」は、加算税の免除理由にはなりません。
今回の3つのケースに共通しているのは、「記録がなかった」という点です。業務実態の記録、走行記録、領収書への記載。どれも、調査が入る前に準備しておける内容ばかりでした。
税務調査は突然やってきます。通知が来てから慌てても、後から記録を作ることはできません。日常の経費処理の段階で「もし調査が来たら、この経費を説明できるか?」という視点を持つことが、最大の防御策になります。
今期の交際費の領収書を一度見直してみてください。記載が薄いものがあれば、取引先のメモを加えるだけでリスクが下がります。決算前でなくていい。今日できることを、今日やっておく。それだけで、A社長のような後悔をしなくて済むはずです。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。