先日、ある社長からこんな相談を受けました。
「去年、税務調査が入って……追徴課税が500万円を超えてしまって」
年商3億ほどの建設会社を経営する方で、「特別なことはしていない」とおっしゃっていました。それでも調査の結果、計上していた経費の一部が「否認」され、想像を超える追徴額が確定してしまったのです。
こういうケースは、決して珍しくありません。
税務調査で指摘される「経費否認」の実態
国税庁の公表データによれば、法人税の実地調査では約8割のケースで何らかの指摘がなされています。そして最も多い理由が「事業との関連性が証明できない経費」です。
悪意がなくても、記録が曖昧なだけで経費は否認されます。意図の有無は関係ない。これが税務調査の本当の怖さです。
「領収書があれば大丈夫」は大きな誤解
よく誤解されるのが、領収書さえ保管していれば問題ないという考え方です。
実は、領収書だけでは不十分なケースが多くあります。税務署が確認したいのは「誰と、何のために使ったのか」という事実関係です。領収書には金額と店名は書いてあっても、目的は一切書かれていません。
税務調査では、通帳やカード明細を過去3〜5年分さかのぼって精査されます。「この飲食代は何のためですか?」「この宿泊は業務出張ですか?」と一件一件問われたとき、すべてに答えられるでしょうか。
特に注意が必要な「グレーゾーン経費」
家族旅行を出張名目で計上するケース。 夏休みに家族を連れて沖縄に行き、「現地取引先と打ち合わせをした」として旅費を計上するパターンです。打ち合わせ自体が事実でも、家族の旅費や観光費が混在していれば税務署はすぐに気づきます。スケジュール帳、メール、議事録などの業務実態の証拠がなければ、全額否認されることもあります。
個人の食事を接待交際費に計上するケース。 「社長ひとりの食事は経費にならない」は有名ですが、配偶者や家族との食事も同様です。接待した相手の会社名や目的が記録されていなければ、否認リスクは大幅に高まります。
自宅事務所の按分に根拠がないケース。 在宅勤務の普及で自宅の家賃や光熱費の一部を経費にするケースが増えています。ただし、使用面積の割合や使用時間の記録など、按分の根拠がなければ「なぜ50%なのか」と問われます。数字に合理的な根拠が示せなければ、否認される可能性があります。
経費を守る「3行メモ」の習慣
対策は複雑なシステムを入れることではありません。支出のたびに「誰と・何のために・どんな目的で」の3点をメモするだけです。
レシートの裏でも、スマートフォンのメモアプリでも構いません。「○○株式会社・田中様との商談後の会食。新規受注の条件確認」のような記録が1行あるだけで、税務調査での説得力は大きく変わります。
デジタル化するなら、レシートとメモをセットで保存できるクラウド会計(freee、マネーフォワードなど)を活用するのが現実的です。
追徴課税は「税額の上乗せ」だけでは終わらない
追徴課税は、否認された分の税額を払えば終わりではありません。本来の税額に加えて、**過少申告加算税(10〜15%)と延滞税(最大年14.6%)**が上乗せされます。悪質と判断されれば重加算税35〜40%が課される場合もあります。
冒頭の社長が受けた500万円という数字は、追徴税額に各種加算税と延滞税が積み上がった結果です。3〜5年分遡られると、これほどの金額になることは珍しくありません。
経費の記録は「今日から」始められる
過去の処理を遡って直すことはできませんが、今期の経費処理を整えることは今すぐできます。
領収書の保管に加えて、「目的と相手の記録」をセットにする習慣を社内で共有してください。特に交際費・出張費・車両費・会議費は優先的に整備すべき項目です。現在の処理に不安があるなら、税理士に「経費の記録ルール」を一度確認してもらうことをおすすめします。税務調査が入ってからでは遅い。今のうちに点検しておく方が、精神的にも経営的にも安心できます。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。