先日、顧問先の社長からこんな連絡がありました。「調査の結果が出まして……追徴が150万円になりそうです」。
電話口の声は明らかに動揺していました。年商2億円を超える建設業を営むAさん。几帳面な方で、毎月の帳簿もきちんと管理されていたはずでした。それでも5年分の税務調査で、3つの経費が全額否認されてしまったのです。
「知らなかった」では済まない——今回はそのAさんの実例をもとに、税務調査で実際に落とされた経費と、その背景にある考え方をお伝えします。
否認された経費①:自宅家賃を全額計上していた
Aさんは自宅兼事務所として使っている一軒家の家賃を、毎月まるごと経費に計上していました。
「仕事で使っているんだから経費でしょ」という感覚、よく分かります。でも税務署の見方は違います。自宅を事務所としても使っている場合、プライベートで使う部分と業務で使う部分を、面積や使用時間で按分する必要があります。
Aさんが指摘されたのは、その按分の根拠が一切残っていなかったこと。「感覚的に半分くらい仕事で使っている」では通用しません。間取り図をもとにした面積比や、実際の使用状況の記録がなければ、税務署は「全額私的利用」と判断してきます。
否認された経費②:家族との食事を接待費にしていた
奥さんと子どもを連れてレストランで食事をした際の領収書を、Aさんは接待交際費として処理していました。「家族も会社の雰囲気を支えてくれているから」という考えでした。
接待交際費として認められる飲食は、取引先・顧客・仕入れ先など事業に関係する相手との飲食が前提です。同席しているのが家族だけであれば、業務関連性の主張はほぼ通りません。
皮肉だったのは、Aさんが日時・金額・参加者をきちんとメモしていたこと。その記録が「家族のみの食事」であることを証明してしまい、全額否認という結果になりました。記録の習慣は大切ですが、記録する内容が正しくなければ逆効果になることもあります。
否認された経費③:取引先抜きのゴルフ代
これが今回の3つの中で、最も「やってしまいがち」なパターンかもしれません。Aさんは「仕事のリフレッシュになるし、いずれ役に立つ人脈もある」という理由で、友人数名とのゴルフ代を接待費として計上していました。
税務署が見るのは「誰と」「何のために」行ったか、という業務上の目的の具体性です。取引先や顧客が同席していない、領収書に相手の会社名もない、商談の記録もない——この状態では「娯楽費」と判断されても、反論する材料がありません。
ゴルフを経費として計上するなら、同席した相手の氏名・会社名・その場での商談の概要を必ず記録に残すことが前提になります。
3つに共通する「落とし穴」
Aさんの事例を振り返ると、3つの否認にはある共通点があります。それは「払った事実はあるけれど、なぜ払ったかを証明できなかった」ということです。
税務調査では、「自分の感覚では経費のはず」という主張は通用しません。支出の目的・相手・業務との関連性を客観的に証明できる記録が揃っていて、はじめて経費として認められます。
5年分の調査で追徴150万円。これは「知識の不足」が招いた結果ですが、裏返せば「日常の記録の積み重ね」で防げた可能性のある金額でもあります。
今すぐ確認してほしいこと
心当たりのある方は、次の3点を確認してみてください。
- 自宅家賃を経費にしているなら、按分の根拠(間取り図や使用割合の記録)が残っているか
- 接待交際費の領収書に、相手の氏名・会社名・飲食の目的が書かれているか
- ゴルフや会食の同席者が取引先かどうか、記録できているか
「なんとなく経費にしてきた」という費目がある方は、決算前に一度、税理士と棚卸しをしてみることをおすすめします。税務調査は「来てから慌てる」ものではなく、「来られても説明できる状態を日常から作っておく」ものです。今期の帳簿が、数年後の調査でそのまま証拠になります。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。