先日、ある建設会社の社長からこんな相談を受けました。

「合同会社にしたら節税になると聞いて設立したんですが、顧問税理士に相談したら『それ、関係ないですよ』と言われて……」

年商5,000万円規模のその会社、設立から3年が経っていました。

「設立費用が安い=節税」という誤解

合同会社の設立費用は、株式会社より約15万円ほど安く済みます。登録免許税が6万円(株式会社は15万円)、定款認証が不要で4万円弱の節約。合計で10〜15万円くらいの差です。

この「初期費用が安い」という事実が、いつの間にか「合同会社のほうが税金面で有利」という話に変化して広まっています。でも、これは完全な誤解です。

法人税率は、合同会社も株式会社もまったく同じです。所得800万円以下の部分に15%、超える部分に23.2%。資本金1億円以下の中小法人であれば、設立形態に関わらず同じ税率が適用されます。

節税の王道スキームも、どちらでも使える

「じゃあ、役員報酬を高く設定して会社の利益を圧縮する節税は?」と思う方もいるかもしれません。これも株式会社と同じように活用できます。

社長自身に役員報酬を支払い、会社の課税所得を減らす。家族を役員や従業員にして報酬を分散する。退職金を活用して節税する。これらは会社の形態に関係なく使える節税手法です。

合同会社だから使える特別な節税スキームは、残念ながら存在しません。

見えにくいデメリット——融資審査と信用力

問題は節税だけではありませんでした。冒頭の田中さんが気づいたのは、銀行融資の場面です。

建設業は元請けや得意先への信用が重要な業界。「合同会社って何ですか?」と取引先に何度か聞かれ、説明が必要になることも増えました。そして、ある金融機関の担当者からこっそり教えてもらったそうです。「合同会社は株式会社より審査基準が少し厳しくなるケースがあります」と。

銀行によって判断は異なりますが、合同会社の歴史はまだ浅く(2006年の会社法改正で誕生)、信用力の評価基準が株式会社ほど確立されていないのが現実です。

融資で不利になれば、事業拡大のタイミングを逃すことにもなりかねません。設立費用の15万円の差より、はるかに大きな機会損失です。

それでも合同会社が向いているケース

合同会社にもメリットはあります。誤解のないよう、正直に書いておきます。

まず、定款の柔軟性。利益配分や議決権の設計が出資比率に縛られないため、複数人で会社を作る場合に柔軟なルール設計ができます。スタートアップや共同事業に向いています。

また、決算公告の義務がない点も合同会社の特徴です。株式会社は官報などへの決算公告が義務付けられており、毎年数万円のコストがかかります(多くの中小企業は無視しているのが実態ですが、厳密には義務です)。

外資系企業の日本法人にも合同会社が多く使われているのは、こうした柔軟性が評価されているからです。

設立形態より、設立後の使い方が大事

節税で本当に差がつくのは、設立形態ではなく「設立後にどんな制度を使い倒すか」です。

役員報酬の最適化、小規模企業共済への加入、経営セーフティ共済の活用、社宅制度や旅費規程の整備……。これらを丁寧に設計するだけで、年間数十〜百万円単位の節税効果が出ることも珍しくありません。

「合同会社か株式会社か」で悩む時間があれば、設立後の節税設計にその時間を使った方が、確実にリターンが大きいです。

すでに合同会社で設立してしまっている方も、株式会社への組織変更は可能です。コストはかかりますが、今後の融資や信用力を重視するなら、一度検討してみる価値はあるかもしれません。

設立形態に迷っている方は、「どちらが節税になるか」ではなく「どちらが自分のビジネスモデルに合っているか」という軸で、税理士や司法書士に相談してみてください。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。