先日、顧問税理士を替えたばかりという製造業の社長から、こんな話を聞きました。「去年、基幹システムを2,000万円かけてクラウド化したんですよ。でも税理士に何も言われないから、普通に経費処理して終わりにしたんです」と。

その翌年、新しい税理士に相談したところ、「DX投資促進税制が使えましたね」のひと言。修正申告を行った結果、約400万円が手元に戻ってきたそうです。

もし昨年に気づいていれば、最大で600万円の節税ができていた計算になります。それを聞いた瞬間、社長は「毎年ずっと払い過ぎていたかもしれない」と、思わず頭を抱えたと言っていました。


「経費で落とせた」だけでは、実はもったいない

DX投資というと「IT導入補助金」を思い浮かべる方も多いのですが、今回ご紹介するのは税制上の優遇措置です。補助金とは別の制度なので、両方をうまく組み合わせることも場合によっては可能です。

「DX投資促進税制」は、企業がデジタル化ツールに投資した際に、法人税の税額そのものを直接減らすことができる制度です。経費として売上から引く「損金算入」とは異なり、計算後の税額からダイレクトに差し引けるのがポイントです。

経費処理でも節税効果はあります。でも税率分しか戻りません。一方、税額控除は投資額の一定割合がそのまま税金から消えるイメージです。この違い、意外と大きいんです。


中小企業が選べる2つのルート

中小企業の場合、この制度では大きく2つの選択肢があります。

ひとつは取得価額の15%を税額から直接控除する方法。2,000万円の投資なら300万円が税額からそのまま引かれます。もうひとつは全額即時償却、つまり購入した年に一括で費用として計上する方法です。

どちらが有利かはその年の利益水準や翌期の見通しによって変わります。利益が潤沢な年は税額控除のインパクトが大きく、赤字が見込まれる翌年があるなら即時償却を選んで繰越欠損金と組み合わせる手もあります。この判断こそ、税理士と事前に話しておくべきポイントです。


どんなシステムが対象になるのか

「うちのシステムは対象になるのか」と気になった方もいるでしょう。対象となるのは、ざっくり言うと業務のデジタル化・効率化を目的としたソフトウェアやシステムです。

具体的には、クラウド型の会計ソフト、在庫管理システム、販売管理ツール、ERPの導入・刷新などが典型例として挙げられます。自社開発のシステムや、既存システムの機能拡張が対象になるケースもあります。

ただし、すべての投資が自動的に対象になるわけではありません。一定の要件を満たした「特定デジタルトランスフォーメーション投資」として認定される必要があり、事前の確認と適切な申告手続きが不可欠です。

「たぶん大丈夫だろう」で進めると、後から否認されるリスクもあります。投資前に顧問税理士へ相談しておくのが鉄則です。


去年の投資、今からでも取り戻せる可能性がある

冒頭の社長のように、すでに経費処理だけで終わらせてしまった投資についても、要件を満たしていれば修正申告によって税額控除を後から適用できる場合があります。申告期限は原則として法定申告期限から5年以内です。

ここ数年でクラウドシステムや業務管理ツールを導入した経営者は、一度「あの投資、DX税制の対象じゃないか」と振り返ってみてください。数百万円単位で税金が戻ってくる可能性があります。

なお、この制度は令和7年度の税制改正でも延長・見直しが議論されており、内容が変わることがあります。最新情報は必ず税理士や税務署で確認するようにしてください。


節税の取りこぼしは「知らなかった」から始まる

田中社長のケースで印象的だったのは、「誰も教えてくれなかった」という言葉です。制度は存在していた。投資も行っていた。でも、提案がなかったから活用できなかった。

顧問税理士との関係は、年に一度の決算処理だけで終わらせるにはもったいない存在です。新しいシステム導入や設備投資を検討している段階で「この投資、何か使える税制はありますか」と一声かけるだけで、結果が大きく変わることがあります。

直近1〜2年でデジタル投資を行った社長は、今すぐ申告内容を税理士と一緒に見直してみることをおすすめします。まだ気づいていない節税が、決算書の中に眠っているかもしれません。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。