先日、建設業を営む社長からこんな相談を受けました。
「不動産管理の子会社が毎年2,000万円近い赤字を出していて、もう畳もうかと思っているんです」
その一言を聞いて、私はすぐに思いました。「もしかして、グループ通算制度を使えていないんじゃないか」と。
赤字の子会社は「お荷物」と感じて整理したくなる気持ち、よくわかります。でも少し待ってください。その赤字、うまく活用すれば大きな節税につながる可能性があります。
赤字子会社が「節税装置」に変わる仕組み
グループ通算制度とは、グループ内の複数の法人をひとつの塊として税金を計算できる制度です。2022年に従来の「連結納税制度」が見直される形でスタートしました。
簡単に言うと、親会社が黒字で子会社が赤字なら、その差額に対して税金を計算できるようになる、ということです。
先ほどの社長のケースで具体的に見てみましょう。
親会社の建設業は年間5,000万円の黒字。一方、不動産管理の子会社は2,000万円の赤字。グループ通算制度を使わなければ、親会社は5,000万円に対して法人税を払い続けることになります。
ところが制度を導入すると、5,000万円から2,000万円を差し引いた3,000万円が課税所得のベースになります。法人税率を約30%とすると、差額2,000万円に対する税負担が約600万円ほど軽くなる計算です。実際にこの社長のケースでは、諸々の調整を経て年間約500万円の節税を実現しました。
子会社の赤字を「損失」ではなく「節税リソース」として捉え直すと、見え方がガラッと変わります。
導入前に知っておくべき3つのデメリット
ここまで聞くと「すぐにでも使いたい」と思う方もいるかもしれません。ただ、グループ通算制度には無視できないデメリットもあります。正直に話しておきます。
1つ目は、申告が複雑になること。 グループ全社が連動して申告書を作成する必要があるため、税務処理の工数が一気に増えます。1社だけで完結しないので、グループ内で情報を揃えるだけでも手間がかかります。
2つ目は、税理士費用が増えること。 その複雑さゆえに、顧問税理士への報酬が増加するケースが多いです。節税額が大きくても、税理士費用で相殺されてしまっては本末転倒。導入前に費用対効果をしっかり試算することが欠かせません。
3つ目は、一度入ったら簡単には抜けられないこと。 グループ通算制度は、導入後に任意でやめることが原則として認められていません。グループの状況が変わっても、制度に縛られ続けるリスクがあります。
これらを踏まえると、どんな会社にも向いているわけではないことがわかります。
「向いている会社」の条件を整理する
私がざっくりと感じている「向いているケース」を挙げるとすると、こんなイメージです。
- 親会社の利益が安定していて、毎年一定額以上の黒字がある
- 子会社の赤字がある程度まとまった金額(目安として年1,000万円以上)
- グループ会社数が多すぎず、管理コストをコントロールできる
- 長期的にグループ体制を維持するつもりがある
一方で、利益がそこまで大きくない会社や、子会社の経営が不安定で赤字・黒字が読めない場合は、費用対効果が合わないことも多いです。
年商規模で言えば、グループ全体で5億円を超えてくる会社から選択肢として検討し始めるイメージを持っておくといいでしょう。
「とりあえず試算だけ」を税理士に頼む
大事なのは、「導入する・しない」を決める前に、必ず税理士に試算を依頼することです。
節税額と税理士費用の増加分を比べて、プラスになるかどうか。これは会社ごとに数字が全然違うので、一般論では判断できません。顧問税理士に「グループ通算、うちに合うか試算してもらえますか?」と一言聞いてみるだけでいい。それだけで、数百万円の差が生まれることもあります。
赤字子会社を「お荷物」と決めつけて整理してしまう前に、この制度の可能性を一度確かめてみてください。活用できる赤字を黙って捨てるのは、お金を捨てるのと同じです。
今期の決算まで時間があるなら、今すぐ税理士に相談するのがおすすめです。制度の適用は事業年度の開始前に手続きが必要なので、動き出すなら早いほど選択肢が広がります。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。