先日、東京で建設会社を経営するA社長と話していて、思わず「もったいない!」と声が出てしまいました。
毎月10回以上の出張をこなしているのに、交通費と宿泊費の実費清算だけで何年も過ごしていたんです。顧問税理士に指摘されるまで、ある「仕組み」に気づかなかったと苦笑いしていました。
その仕組みとは、「出張旅費規程」です。
実費精算だけでは、もったいない理由
出張といえば、新幹線代やホテル代を領収書で精算する——多くの中小企業がそれだけで終わっています。もちろん交通費・宿泊費の実費精算も経費になりますが、それとは別に「日当」を上乗せして支給できることを知らない社長が、じつは非常に多いんです。
日当とは、出張に伴う細かい雑費や疲労への補填として支給する手当のこと。コンビニでの買い物、現地でのタクシー、ちょっとした食事代——そういった領収書を取りにくい支出を丸ごとカバーする意味合いがあります。
そして、この日当には大きな特徴があります。会社にとっては経費(損金)になりつつ、受け取る社長個人には所得税・住民税がかからないのです。
年60万円の節税はこうして生まれた
A社長のケースを具体的に見てみましょう。
月10回の出張に対して、1回あたり5,000円の日当を設定したとします。月5万円、年間で60万円。この60万円が会社の損金に算入され、法人税が減ります。さらにA社長個人の手元には、所得税ゼロで60万円が入ってくる。
役員報酬を同じ金額だけ上げた場合と比べてみてください。報酬なら社会保険料もかかりますし、所得税・住民税も取られます。手取りベースで考えると、日当との差は歴然です。
日当を1万円に設定できれば、年間120万円のキャッシュが非課税で動くことになります。A社長は保守的に5,000円に設定しましたが、それでも節税効果は年60万円。「こんな簡単なことを何年もやっていなかったのか」と、かなり悔しそうでした。
規程を作るときの2つの絶対ポイント
ただし、ただ口で「日当を出す」と言うだけでは税務上認められません。しっかりとした要件を満たす必要があります。
ひとつ目は、書面で規程を作成することです。「出張旅費規程」という社内文書を正式に定め、いつ・誰に・いくら支払うかを明文化しておく必要があります。口頭の取り決めや、その都度バラバラに支払うのはNGです。
ふたつ目は、金額が社会通念上の常識の範囲内であること。出張1回あたり5,000〜10,000円程度が一般的な目安とされていますが、業界や移動距離によって異なります。そして重要なのが、役員だけ突出して高い金額を設定しないこと。従業員にも適切な日当を設定したうえで、役員の金額が極端に高くないバランスが求められます。
この2点を外すと、税務調査で否認されるリスクが出てきます。逆に言えば、この2点をきちんと守れば、極めてシンプルかつ強力な節税策になるわけです。
規程の中身、何を書けばいい?
旅費規程に盛り込むべき主な項目を挙げると、出張の定義(日帰り・宿泊の区分など)、役職ごとの日当金額、交通費・宿泊費の支給上限、出張報告の方法——といった内容が一般的です。
ひな形はインターネットでも手に入りますが、金額設定については顧問税理士と一緒に決めることを強くおすすめします。「うちの業種・規模でどこまで認められるか」は、実際の税務判断を踏まえてアドバイスをもらうのが確実です。
規程を整備したあとは、出張のたびに出張命令書や旅費精算書を残しておくこと。日当を支払った記録がきちんとあることで、税務調査があっても堂々と説明できます。
出張の多い社長ほど、差がつく
出張が多い業種——建設、不動産、製造、営業系のサービス業——の社長ほど、この制度の恩恵は大きくなります。年に数回しか出張しない会社なら効果は限定的ですが、月に5回・10回と出張がある会社なら、規程ひとつ作るだけで数十万円単位の差が生まれます。
しかも一度規程を作ってしまえば、毎年継続して効果が出続けます。初年度だけでなく、会社が続く限りずっと使える仕組みです。
まだ旅費規程を整備していないなら、今期中に着手することをおすすめします。決算が近づいてから慌てて作るより、期の早い段階から運用しておくほうが、その年の節税効果もしっかり取り込めます。まずは顧問税理士に「旅費規程、作れますか?」と一言聞いてみてください。それだけで、何十万円もの節税につながるかもしれません。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。