先日、年商2億円ほどの ITコンサル会社を経営する社長から、こんな相談を受けました。
「売上は順調なのに、手元にお金が残らないんですよね。役員報酬を上げると税金がえげつなくて……」
この悩み、じつは多くの社長が口にするんです。そして、その解決策の一つとして私がよくお伝えしているのが、「法人と個人の二刀流」という考え方です。
法人一本で戦うと、こんなことが起きる
法人だけで経営していると、会社の利益を自分の手元に移す手段が「役員報酬」しかありません。役員報酬を増やせば手取りは上がりますが、そのぶん所得税と住民税がのしかかってきます。
課税所得が900万円を超えると、所得税率は33%になります。住民税の10%を合わせると、実質43%以上が税金として消えていく計算です。1,000万円稼いでも、430万円以上が税金。これでは手元に残りづらいのも当然です。
一方で、役員報酬を抑えすぎると法人側に利益が積み上がり、今度は法人税がかかってくる。どちらに転んでも税金、という板挟みに悩む社長が後を絶ちません。
「二刀流」とは何か
ここで有効なのが、個人事業を法人と並行して持つという発想です。
たとえば、法人でシステム開発業を営みながら、個人事業としてコンサルティングや講師業を別途立ち上げるイメージです。クライアントとの契約の切り分けや、業務の性質によって個人側で受けられる仕事を振り分けます。
こうすることで、何が変わるのか。大きく分けて3つのメリットがあります。
まず、所得を二か所に分散できること。法人に利益を集中させず、個人事業側にも適切に収益を流すことで、それぞれの課税所得を低く抑えられます。累進課税の仕組み上、所得が低いほど税率も低くなるので、合計の税負担がぐっと下がるのです。
次に、個人事業側で経費が使えること。自宅の一部を事務所として家賃の一部を経費にしたり、仕事に使う書籍や通信費を落としたりと、個人でも正当な経費計上の余地は意外と多くあります。
そして、青色申告特別控除65万円が使えること。個人事業主として青色申告をきちんと行えば、所得から65万円を控除できます。これだけで数万円単位の節税効果があります。
数字で見ると、差は歴然
具体的なイメージをお伝えしましょう。
法人一本で役員報酬1,500万円を受け取る場合、給与所得控除を差し引いても課税所得はかなり高くなります。所得税・住民税の合計税率が40%前後になるケースも珍しくありません。
一方、役員報酬を800万円に抑え、残りの収益を個人事業で補う形にすると、個人側の課税所得を900万円以下に収めやすくなります。この水準なら所得税率は23%以下。法人税の実効税率も約23%前後ですから、どちらも似たような税率帯に揃えられるわけです。
この設計を上手く組み立てると、年間で100万〜200万円規模の節税効果が出ることもあります。一度の設計変更がこれだけのインパクトをもたらすとしたら、検討する価値は十分あるはずです。
注意したいこと
ただし、この二刀流には注意点もあります。
一番重要なのは、法人と個人の業務をきちんと分けることです。実態のない分散は税務調査で否認されるリスクがあります。契約書をしっかり整備し、実際に個人として業務を行っている証跡を残しておくことが前提です。
また、社会保険料の扱いや、法人から個人への業務委託が「給与」とみなされないよう、取引の形式にも気を配る必要があります。「なんとなく二刀流にしてみた」では、かえってリスクを抱えることになりかねません。
さらに、個人事業の開業届や青色申告承認申請書の提出など、手続き面での準備も必要です。青色申告の65万円控除を受けるには、複式簿記による記帳と期限内申告が条件になります。
今の経営スタイルを一度見直してみてください
法人一本で長年やってきた社長ほど、「今さら個人事業を……」と躊躇することがあります。でも、税の仕組みは「知っている人が得をする」世界です。合法的な手段で手取りを増やせるなら、使わない理由はありません。
まずは自分の現状の役員報酬額と法人の利益水準を確認して、「もし個人事業を併用したら?」という試算を税理士に依頼してみてください。数字を見れば、二刀流が自分に合うかどうか、すぐに判断できるはずです。
法人設立から時間が経ち、経営が安定してきた今こそ、税の設計を見直すベストタイミングかもしれません。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。