先日、顧問先の社長からこんな一言をもらいました。
「先生、保険の節税って2019年に全部ダメになったんですよね?うちはもう関係ないかと思って、ずっと放置してました」
売上が年間3億円を超え、利益もしっかり出ている会社の話です。正直、もったいないと思いました。確かに2019年の税制改正は大きな転換点でした。でも「保険節税が完全に終わった」というのは、少し誤解があります。
今回は、改正後の今でも実際に使えるスキームを3つ、現場目線でお伝えします。
2019年改正で何が変わったのか
改正前は「全額損金タイプ」の逓増定期保険などを使うことで、保険料の全額を経費にしながら将来の解約返戻金を受け取るという手法が広く使われていました。税務当局もこれを問題視し、2019年に損金算入ルールが大幅に見直されました。
ざっくり言うと、解約返戻率が高い商品ほど損金に算入できる割合が下がる仕組みになったのです。「おいしいとこどり」ができなくなった、というイメージです。
ただし、ここが重要なのですが、保険を使った節税スキームがすべて封じられたわけではありません。使い方を正しく設計すれば、今でも十分に節税効果を出すことができます。
今も使える方法①:50%損金タイプの経営者保険
改正後も、解約返戻率が一定水準以下に抑えられた商品であれば、保険料の50%を損金として計上できます。
たとえば年間保険料が300万円なら、150万円を毎年経費にできます。10年続ければ1,500万円の経費計上です。残り50%は資産計上になりますが、将来の解約返戻金として戻ってきます。
ここでのポイントは「退職金の準備と節税を同時に行える」という点です。社長が65歳で退職するタイミングに合わせて解約すれば、退職金という大きな損金と解約返戻金の益金を相殺できます。単純に「経費が増える」というより、利益の時期をコントロールするイメージです。
今も使える方法②:養老保険のハーフタックスプラン
これは経営者向けではなく、従業員を対象にした手法です。会社が契約者となり、従業員全員を被保険者にした養老保険を活用します。
このプランでは保険料の半分が福利厚生費として損金になり、残り半分が資産計上になります。従業員にとっては死亡保障と満期保険金を受け取れる福利厚生になるため、採用・定着の面でも効果があります。
中小企業で人材確保に悩んでいる会社にとっては、節税と福利厚生を同時に整備できる一石二鳥の手段です。年間保険料が500万円なら250万円が毎年の経費になる計算で、規模感によってはインパクトのある数字になります。
今も使える方法③:解約タイミングを設計する「出口戦略」
保険節税で最も見落とされがちで、最も重要なのがこの「出口設計」です。
保険料を損金にしながら積み立て、解約返戻金を受け取ったときに雑収入として益金が発生します。この益金をどの年度に計上するかを計画的にコントロールすることが、保険節税の本質です。
具体的には、大型の設備投資をした年、役員退職金を支払う年、業績が落ち込んで赤字になりそうな年など、「利益が少ない年」に解約を合わせることで、益金の影響を最小化できます。
何も考えずに利益が過去最高の年に解約してしまうと、税金がドカンとかかります。逆に赤字年に解約すれば、実質的な税負担はほぼゼロになることもある。同じ保険でも、解約のタイミングひとつで数百万円の差が生まれるのはざらにあることです。
商品選びを間違えると逆効果になる
注意していただきたいのは、保険会社の営業担当者がすすめる商品が、必ずしも自社に合っているとは限らないという点です。
解約返戻率が低すぎる商品を選んでしまうと、損金のメリットよりも「戻ってくるお金が少ない」というデメリットが上回ることがあります。また、キャッシュフローを無視して高額な保険料を設定すると、資金繰りを圧迫するリスクもあります。
保険会社は保険のプロですが、税務のプロではありません。商品の提案を受けたら、必ず顧問税理士にシミュレーションを見てもらってから契約を判断することをお勧めします。「税理士に確認します」と言って嫌な顔をする営業担当者がいれば、それ自体が一つのシグナルです。
保険節税は「設計力」がすべて
2019年以降、保険節税は「仕組みで稼ぐ時代」から「設計で稼ぐ時代」になりました。
単純に全額経費になる商品がなくなったぶん、出口のタイミング設計や退職金・設備投資との組み合わせ方が、より重要になっています。裏を返せば、きちんと設計できている会社は今でも十分な節税効果を享受しています。
「保険節税はもう終わった」と思って何も手を打っていない社長こそ、一度税理士と一緒に自社の保険契約を棚卸しする価値があると思います。今加入している保険の出口設計が、実は最適でないケースも少なくありません。
決算前に「そういえば保険どうなってたっけ」と思い出したときが、見直しのタイミングです。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。