先日、ある社長からこんな話を聞かせてもらいました。

「毎年の決算のたびに、法人税の額を見てため息をついていたんですよ。でも去年は、従業員にも感謝されながら税金を減らせたんです」

従業員20名ほどの製造業を営む田中社長(仮名)。その言葉のきっかけになったのが、顧問税理士に勧められた『iDeCoプラス』という制度でした。聞き慣れない方も多いかもしれませんが、これが中小企業の経営者にとって、かなり使えるスキームなんです。

iDeCoプラスって何が「プラス」なの?

通常のiDeCoは個人が自分で掛金を拠出する私的年金制度ですが、iDeCoプラス(正式名称:中小事業主掛金納付制度)は、会社が従業員のiDeCo掛金に上乗せして拠出できる仕組みです。

従業員が自分で積み立てているところに、会社もお金を足してあげるイメージ。そして、会社が拠出したその掛金は全額損金として計上できます。つまり、経費になるわけです。

中小企業が使える節税手段はいくつかありますが、「従業員の福利厚生にもなって、なおかつ損金になる」という二重の効果があるのがiDeCoプラスの最大の魅力です。

田中社長のケースで数字を見てみる

田中社長が設計したのは、こういう内容でした。

対象の従業員10名に対して、会社が毎月2万円を上乗せ拠出する。それだけです。シンプルですよね。

これを年間に換算すると、2万円 × 10名 × 12ヶ月 = 240万円が会社の損金になります。法人税率が25%だとすれば、240万円 × 25% = 年間60万円の節税です。

設備投資のような一時的な出費ではなく、毎年継続的に効いてくる節税策というのがポイント。しかも、その240万円は捨て金ではなく、従業員の老後の資産として積み上がっていきます。

「離職率が下がった」という予想外の効果

田中社長が驚いたのは、節税効果だけではありませんでした。

制度を導入してしばらくすると、「会社が自分たちの将来を考えてくれている」という声が従業員から上がるようになったそうです。製造業は慢性的な人手不足に悩む業種でもあります。採用コストや教育コストを考えれば、離職率が少し下がるだけでも経営的なインパクトは小さくありません。

節税 + 従業員満足度の向上 + 採用・定着コストの削減。こう並べると、iDeCoプラスは「福利厚生の整備」という文脈でも十分に投資対効果が見えてきます。

社長自身の節税も忘れずに

ここまでは「会社として」の話でしたが、社長個人の節税も同時に考えておきたいところです。

役員もiDeCoに加入できます(一定の条件あり)。田中社長は月2万3,000円を自身の掛金として拠出しています。iDeCoの掛金は全額が所得控除の対象になるため、所得税と住民税の両方が下がります。

年間で27万6,000円の控除。所得税率が20%、住民税が10%の合計30%で計算すると、約8万円強の節税になります。法人側の60万円と合わせると、グループ全体での節税効果はかなりの金額になりますよね。

導入前に確認しておきたいこと

iDeCoプラスには、いくつか押さえておくべき条件があります。

まず、従業員数が300名以下であること(中小企業向けの制度です)。また、企業型確定拠出年金(企業型DC)をすでに導入している場合は、原則として併用ができません。既存の退職金制度との兼ね合いも確認が必要です。

掛金の上限額にも注意が必要で、従業員の加入状況や他の年金制度の有無によって変わってきます。「うちの会社はいくら拠出できるのか」は、必ず顧問税理士や社労士と一緒に確認するようにしてください。

今期の決算前に、一度試算してみてください

iDeCoプラスは、設備投資のように何百万円もの先行投資を必要としません。毎月の掛金を積み立てるだけで、損金計上・従業員への還元・社長個人の節税が同時に動き出します。

「従業員のためになることをしながら、税金も減らせるなら」と田中社長が言っていたのが印象的でした。節税はあくまで結果であって、制度の本質は「中小企業でも従業員の老後を支援できる仕組みを整える」ことにあります。

まだiDeCoプラスを検討したことがないなら、次の顧問税理士との打ち合わせで一度話題に出してみることをおすすめします。意外と「それ、うちでも使えますよ」という返答が来るかもしれません。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。