先日、都内でマンションを2棟持つ60代の社長からこんな相談を受けました。「そろそろ息子に不動産を渡したいんだけど、生前贈与と相続、どっちが得なの?」——この質問、じつは答えが一言では出ません。渡し方を間違えると、数千万円単位で損をする可能性があるからです。

今回は「不動産の渡し方」にまつわる、知っておくべきお金の話をします。

相続なら評価額が下がる、でも生前贈与は?

不動産を相続で渡す場合、評価額は「路線価」をベースに計算されます。路線価は一般的に時価の7〜8割程度。つまり、市場で1億円で売れる土地でも、相続税の計算上は7,000〜8,000万円として扱われます。これが「不動産は相続に強い」と言われる理由のひとつです。

ところが、同じ不動産を生前贈与しようとすると話が変わります。贈与税の評価額は相続税と同じ路線価ベースですが、そこにかかる贈与税率が最大55%。仮に評価額8,000万円の物件をそのまま贈与すると、贈与税だけで数千万円の請求が来ることになります。「相続より先に渡そうとしたら、逆に高くついた」という笑えない話は、実際によく起きています。

「相続時精算課税制度」が突破口になる

では生前贈与は使えないのか、というとそうではありません。ここで登場するのが相続時精算課税制度です。

60歳以上の親から子や孫への贈与について、累計2,500万円までは贈与税が非課税になる制度です。2,500万円を超えた分には一律20%の贈与税がかかりますが、その贈与税は将来の相続時に精算(相殺)されます。名前の通り、「今は贈与、後で相続税と精算する」仕組みです。

これ単体だと「どうせ相続税に合算されるなら同じでは?」と思うかもしれません。でも、収益物件に使うと話が違ってきます

家賃収益ごと子に移す、これが本質

相続時精算課税制度で収益物件を子に贈与する最大のメリットは、物件の評価額だけでなく、その後発生する家賃収入も丸ごと子の財産にできる点です。

例えば、年間300万円の家賃が入る賃貸物件を子に贈与したとします。贈与後の10年間で子が受け取る家賃は合計3,000万円。この3,000万円は、親の相続財産として積み上がることなく、最初から子の財産として蓄積されていきます。

親が手元に置いたままなら、その3,000万円は相続財産に加算されて相続税がかかります。早めに移せば移すほど、相続財産の膨張を抑えられるわけです。これが「生前贈与で3,000万円の差が出る」と言われる理由です。

ただし、物件によって有利・不利は逆転する

ここまで読んで「じゃあすぐ贈与しよう」と思った方、少し待ってください。

相続時精算課税制度を使うと、一度選択したら暦年贈与(年110万円の基礎控除)に戻れないというルールがあります(2024年以降は年110万円の基礎控除が別途使えるようになりましたが、制度の複雑さは変わりません)。また、物件の種類・築年数・ローン残高・家族構成によっては、素直に相続を待った方が税負担が低くなるケースも十分あります。

特に注意が必要なのは以下のようなケースです。

  • 物件の評価額が高く、将来的に価格下落が見込まれる場合(相続時点で低い評価額の方が有利になる)
  • 配偶者への相続が絡む場合(配偶者控除が大きく効くため、生前贈与が不要なことも)
  • 物件にローンが残っており、債務控除の計算が複雑になる場合

「収益物件があるから相続時精算課税を使えばいい」という単純な話ではなく、あなたの家族全体の財産バランスと将来設計を見た上で判断する必要があります

まず「自分の物件は何点?」を整理する

今すぐできることとして、保有している不動産について以下を整理しておくことをおすすめします。

  • 路線価ベースの評価額はいくらか
  • 年間の家賃収入はいくらか
  • 贈与したい相手(子・孫)は何人いるか
  • 現在の相続財産総額はおおよそいくらか

この4点を把握しているだけで、税理士との相談が格段にスムーズになります。何も準備せずに「どうしたらいい?」と聞くより、「この物件をこの子に渡したいが、今渡すべきか」という具体的な問いに変わるからです。

不動産の相続対策は、始めるタイミングが早ければ早いほど選択肢が広がります。「まだ先の話」と思っている方ほど、今年中に一度シミュレーションをしておくことを強くおすすめします。税理士に相談する前の「予習」として、この記事が少しでも役立てば嬉しいです。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。