先日、ある製造業の社長からこんな相談を受けました。

「長男に会社を継がせたつもりだったのに、弟と妻が株を持ったままで、重要な決議がまったく通らない。このままでは会社が動かせない」と。

話を聞いてみると、株主構成は長男60%・次男20%・奥様20%。一見、長男が過半数を持っているので問題なさそうに見えます。でも実は、これが「親族承継で最も多い株式ミス」のひとつなんです。

過半数では足りない。67%超が必要な本当の理由

株主総会の決議には、大きく分けて「普通決議」と「特別決議」の2種類があります。

普通決議は過半数(50%超)あれば通せますが、特別決議は3分の2以上、つまり約67%超が必要です。特別決議が必要な場面というのが、実は経営の根幹に関わるものばかりです。定款変更、会社の合併・分割、役員報酬の大幅な変更、事業の重要な一部譲渡……後継者が会社を動かしていくうえで避けられない意思決定が、ほぼすべてここに含まれます。

長男が60%しか持っていないと、特別決議のたびに次男か奥様の同意が必要になります。仲が良いうちはいい。でも、相続が発生したり、家族間でちょっとした感情的なすれ違いが生じたりしたとき、その「同意」が武器になってしまうのです。

10年後、見知らぬ親族が株主になるケースも

株式の分散が怖いのは、「今」だけの問題ではありません。

次男が亡くなれば、その株式は次男の配偶者や子供たちへと相続されます。さらにその相続が繰り返されると、10年・20年後には、会社とほとんど関わりのない人物が株主名簿に名を連ねることになります。

実際、「株主に連絡したら、先代の社長の弟の娘で、存在すら知らなかった」という話は珍しくありません。その方が株主として権利を主張してきたとき、後継者は一切断れないのです。

放置すればするほど、株式は静かに、しかし確実に拡散していきます。

理想の設計は「後継者67%超+計画的な集約」

では、どうすればいいか。答えはシンプルです。

後継者に67%を超える株式を集中させること。これが大原則です。残りの株式については、相続時精算課税制度などを活用しながら、計画的に後継者へ移していくのが鉄則です。

相続時精算課税は、贈与時に2,500万円までの特別控除が使える制度で、株価が低いうちに株式を移転するのに向いています。自社株の評価額は業績によって変動するため、「今期は利益が少なくて評価が下がっている」というタイミングを狙って贈与するのが賢いやり方です。

ただし、この制度には注意点もあります。相続時精算課税を一度選択すると、その贈与者からの贈与については暦年課税に戻せません。また、2024年以降の税制改正で基礎控除のルールも変わっています。単純に「贈与すればいい」ではなく、全体の相続設計と組み合わせて考える必要があります。

まず今すぐ株主名簿を引っ張り出してほしい

ここまで読んでいただいた方に、ひとつお願いがあります。

今すぐ、自社の株主名簿を確認してください。

「自分の会社だからわかってる」と思っている社長も、実際に名簿を見ると「あれ、この人まだ株持ってたっけ」「この割合、いつ変わったんだろう」となるケースが意外と多いのです。

特に、先代から引き継いだ会社や、創業時に知人・親族へ株を渡した経緯がある会社は要注意です。株式の設計は一度整えれば終わりではなく、相続のたびに見直しが必要なものです。

事業承継は「渡せばおわり」ではなく、「渡した後も会社が動き続けるか」まで設計するものだと思っています。後継者が安心して経営できるよう、株式の集約を今期中に専門家と一緒に確認しておくことを強くおすすめします。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。