先日、製造業を営む60代の社長からこんな相談を受けました。

「息子に会社を継がせたいんだけど、娘にも財産を残してやりたい。でも株を2人に分けたら、将来モメるんじゃないかと思って…」

これ、実はとても多い悩みです。自社株をそのまま分けると、議決権も一緒に分散してしまいます。後継者が3分の2以上の議決権を持てなければ、重要な経営判断にも制約が生じる。かといって、後継者にだけ集中させると他の相続人から「不公平だ」と言われかねない。

このジレンマを解決する手段のひとつが、種類株式です。

株式に「種類」をつくるとはどういうことか

通常の株式は、持っている枚数に応じて議決権と配当が比例して分配されます。1株持てば1票、100株持てば100票。シンプルですが、相続においてはこれが悩みの種になります。

種類株式とは、この「株式の性質」を変えられる仕組みです。定款を変更することで、同じ会社の株でも「議決権あり」「議決権なし」「配当優先」「相続時に会社が買い取れる」など、異なる条件を持つ複数種類の株を発行できるようになります。

会社法上、種類株式には9種類の内容が認められており、中小企業の事業承継ではこれを組み合わせて使うことが多いです。

実際にどう設計するか:3つのパターン

1. 後継者に「議決権集中株」を渡す

最もシンプルな使い方が、後継者には議決権あり株を渡し、他の相続人には議決権制限株(または議決権なし株)を渡すやり方です。

たとえば、兄が後継者で妹が相続人というケース。株の枚数は同じように渡しても、議決権は兄だけが持つ設計にすれば、経営判断は兄が単独で行えます。妹は配当を受け取る権利は持ちつつ、経営には口を出せない。これで「株は公平に渡した」と言いながら、経営権は守れます。

2. 配当優先株で「不公平感」を和らげる

議決権を持てない相続人が「損をした」と感じないよう、配当を優先的に受け取れる設計を加えるのが有効です。

普通株より先に、かつ多めに配当を受け取れる「配当優先株」を渡すことで、財産としての価値を高められます。会社の業績が良ければ、むしろ議決権なし株のほうが受け取れる配当は多くなるケースもある。「議決権はいらないけど、お金はきちんと受け取りたい」という相続人には、むしろ喜ばれることもあります。

3. 「属人的株式」または「拒否権付株式(黄金株)」で経営を守る

事業承継の過渡期に有効なのが、拒否権付株式、通称「黄金株」です。会社の重要事項(合併・役員選任・定款変更など)について、この株を持つ人が拒否できるという仕組みです。

現社長がまだ経営に関与したい時期に、自分だけが黄金株を持っておくことで、後継者に経営の主導権を渡しながらも「最終的な歯止め」を残せます。後継者が暴走したとき、あるいは外部からの乗っ取りを防ぐ「保険」として機能します。

注意しておきたいコストとタイミング

種類株式の導入には、定款変更と登記手続きが必要です。司法書士・弁護士・税理士が連携して進めるケースが多く、初期費用として数十万円かかることを見込んでおく必要があります。

また、種類株式の評価方法は税務上まだ確立されていない部分もあり、設計によっては予期しない贈与税・相続税の課税リスクが生じる可能性があります。「とりあえずやってみよう」ではなく、税理士と弁護士が一緒に設計に関わることが鉄則です。

もうひとつ大切なのがタイミングです。相続が発生してからでは遅い。株主構成を変えるには株主全員の合意が必要な場面もあり、現社長が元気なうちに動き始めることが何より重要です。「そのうちやろう」と思っていた社長が、体調を崩してから慌てて相談に来るケースを何度も見てきました。

まずは「今の株主構成」を把握することから

種類株式の設計を考える前に、まず自社の株がいま誰にどれだけ渡っているかを正確に把握してください。意外と、昔に渡した株の存在を忘れていたり、名義株の問題が残っていたりするケースがあります。

株主名簿と定款を引っ張り出して、顧問税理士に「うちの株、今どうなってる?」と聞いてみるだけでいい。それが、相続トラブルを防ぐ第一歩です。

事業承継は、早く動いた人ほど選択肢が広がります。種類株式という道具を知っているだけで、相続設計の幅がぐっと広がりますので、ぜひ今期中に一度、専門家に相談してみてください。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。