先日、賃貸物件を10棟ほど持つオーナー社長からこんな相談を受けました。「法人を作ったはいいけど、自分一人が役員で、結局また高い税金を払ってる気がして……」。話を聞いてみると、奥さんもお子さんも、法人にはまったく関わっていないとのこと。これは、大きな節税チャンスを丸ごと見逃しているケースです。
「所得の集中」こそが高い税金の正体
日本の税制は、稼ぐほど税率が上がる累進課税の仕組みになっています。たとえば年間所得が1,000万円を超えると、所得税だけで33%の税率がかかってきます。住民税と合わせると43%超。つまり稼いだ半分近くが税金として消えていく計算です。
不動産管理法人を作る最大の意義のひとつは、この「所得の集中」を分散させることにあります。一人の社長に所得を集めるのではなく、家族のメンバーにも適切な報酬を払うことで、全体の税率を意図的に下げることができるのです。
奥さんを役員にすると、何がどう変わるのか
具体的な数字で見てみましょう。奥さんに年間96万円の役員報酬を設定するケースです。
月8万円の報酬は、社会保険の加入義務が生じないラインに収まります。さらに給与所得控除(55万円)と基礎控除(48万円)を合わせると、所得税はほぼゼロ。住民税も非課税水準に収まります。奥さんの手元に残るお金は96万円、税負担はほぼなし、という状態が実現できます。
一方、法人側ではこの96万円が全額「役員報酬」として経費に計上されます。法人税率を約30%とすると、約29万円の税負担が減ります。支払った報酬が丸ごと経費になるうえ、受け取った側には税金がほとんどかからない。まさに一石二鳥の設計です。
学生の子どもでも、役員になれる
「うちの子はまだ大学生で……」と思った方も、諦めるのは早いです。法人の役員に年齢制限はありません。学生であっても、実際に管理業務に関わっていれば、報酬を支払うことは正当な経費として認められます。
入居者の問い合わせ対応、清掃業者との連絡調整、物件の写真撮影や記録管理など、実態を伴った業務を担わせることが前提です。家族全員で所得を分散させれば、累進課税の壁を合法的に乗り越えることができます。たとえば奥さんに96万円、子ども二人に各60万円を設定するだけで、年間の支出合計は216万円。これがすべて法人の経費になります。
名ばかり役員は、税務調査の標的になる
ここで必ず押さえておきたいのが「実態」の重要性です。
名前だけ役員に並べて実際には何もしていない、という設計は税務調査のリスクが一気に高まります。税務署は「業務の実態があるか」「報酬額は業務量に見合っているか」を厳しく見ます。議事録、業務日報、連絡履歴、契約書への押印記録など、実態を証明できる証拠を日頃から積み上げておくことが不可欠です。
報酬額の設定も、相場観がない状態で高額を設定するのは禁物です。管理業務の内容と時間を整理したうえで、合理的な金額を設定するプロセスが求められます。
設計を誤ると「節税」が「追徴課税」に変わる
家族役員を使った報酬分散は、正しく設計すれば非常に強力な節税手法です。しかし、設計を誤ると話は逆転します。税務調査で否認された場合、過去に遡って役員報酬が経費として認められず、追徴課税と延滞税がまとめてやってくることになります。
このスキームを取り入れる際は、必ず不動産税務に精通した税理士と一緒に設計を進めてください。「とりあえずやってみる」が一番危険です。
すでに不動産管理法人を持っているのに、家族が一切関わっていないという社長は、今すぐ顧問税理士に「家族への役員報酬の設計を見直したい」と相談することをおすすめします。適切に設計するだけで、毎年の税負担が大きく変わる可能性があります。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。