先日、不動産賃貸業を営む社長からこんな相談を受けました。
「10年前に購入したビルを売ろうと思っているんですが、税理士に聞いたら税金が4,000万円近くかかるって言われて……。何か手はないですか?」
含み益が1億円あるのに、手元に残るのは6,000万円ちょっと。そう聞かされたとき、誰でも「もう少しどうにかならないか」と思いますよね。実はこれ、タイミングと手順さえ合っていれば、税負担を半分近くまで圧縮できるケースがあるんです。
法人の不動産売却、なぜ税率が高くなるのか
個人で不動産を売る場合、長期譲渡所得なら税率は約20%です。一方、法人で売却すると、売却益は「ただの利益」として法人税の課税対象になります。中小企業でも実効税率はおおよそ33〜40%。規模が大きくなればなるほど、この差がじわじわと効いてきます。
「法人で持っていると売るときに損だ」と言われるのは、まさにここが理由です。でも、だからといって最初から個人で持てばよかった、という話でもありません。保有中の節税効果を考えれば、法人保有のメリットは十分あります。大事なのは、売るときにどう出口を設計するか、なんです。
「圧縮記帳」で課税を将来に先送りする
法人が使える代表的な手法のひとつが、圧縮記帳です。
簡単に言うと、不動産を売って得た利益を新しい資産の取得に充てたとき、その取得価額を帳簿上で圧縮(減額)することで、売却益に対する課税を繰り延べられる仕組みです。課税が「なくなる」わけではなく、「将来に先送りする」イメージです。
ただし、この圧縮記帳が使えるのは、国庫補助金や保険差益などが絡む特定の場面に限られます。不動産の売却益に単純に使えるわけではないので、「どういう形の売却・取得なら適用できるか」を事前に設計する必要があります。
「買換え特例」が強力な理由
もうひとつ、法人が活用できる強力な手段が特定の資産の買換え特例(法人税法上の圧縮特例)です。
これは、一定の条件を満たした不動産を売却して、別の不動産を新たに購入した場合に、売却益の一部(原則として80%)を課税繰り延べできる制度です。
たとえば、5,000万円の売却益が出たとします。通常なら全額に法人税率がかかります。でも買換え特例を使えば、課税対象になるのは残りの20%、つまり1,000万円だけ。実質的な税負担は、売却益全体に対して数%台まで下がることになります。5,000万円の含み益があっても、その年の課税をほぼゼロに近づけた事例があるのは、この仕組みがあるからです。
ただし、この特例には適用条件があります。売却する不動産と買い換える不動産の「所在地」「用途」「面積」「保有年数」などに細かい縛りがあり、すべてを満たさないと使えません。たとえば、売却する資産は10年以上保有していることが条件のひとつです。買い換え先の条件も細かく定められています。
「売る直前」では絶対に間に合わない
ここが最大のポイントです。
買換え特例を使うには、売却と購入のタイミングを合わせる必要があります。原則として、売却した年の前年・当年・翌年の3年以内に買い換え先の取得を完了しなければなりません。つまり、売却後に「どこかいい物件ないかな」と探し始めても遅いことがほとんどです。
さらに言えば、売却の2〜3年前から出口戦略を考え始めることが必須です。なぜなら、保有年数の要件を確認したり、どの物件を売ってどの物件に買い換えるかを設計したり、融資や資金繰りを整えたりするには、それだけの準備期間が必要だからです。「来月売りたい」と相談を受けても、税理士にできることは限られてしまいます。
実際に動くべきタイミングは「今」かもしれない
含み益のある不動産を法人で持っているなら、今すぐ売る予定がなくても、一度出口の選択肢を整理しておくことをおすすめします。
「あの物件、そろそろ手放してもいいかな」と思い始めたときには、すでに2〜3年前から動いている人が有利なポジションにいます。節税の世界では、準備の早さがそのまま手取り額の差になります。
不動産に強い税理士に相談する際は、「この物件の保有年数と含み益を伝え、買換え特例が使えるか確認してほしい」と具体的に話すと、議論がスムーズに進みます。漠然と「節税したい」より、数字を持って相談する方が、税理士も的確なアドバイスを出しやすいです。
含み益を抱えた不動産をそのまま「いつか売ればいい」と放置するのは、もったいない話です。今期の決算が落ち着いたタイミングで、一度不動産の出口設計について税理士と話し合ってみてください。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。