先日、ある建設会社の社長から相談を受けました。「本社の土地は自分名義のままなんですが、そろそろ会社に移した方がいいですか」。

決算書を見ると業績は好調、会社の預金も潤沢。でも土地の名義については、創業時のまま何となく放置していたそうです。

この「何となく」が、将来の相続税に大きな差を生むことがあります。

相続税は最大55%まで上がる税金

相続税は財産の金額に応じて税率が上がる累進課税で、10%から最高55%まで幅があります。

財産が数千万円程度なら影響は限定的ですが、会社の本社ビルや工場用地のような高額な不動産が個人名義に混ざっていると、相続財産全体を押し上げ、適用される税率の段階そのものが変わってしまいます。

つまり不動産の名義は、「その不動産にいくら税金がかかるか」だけでなく「他の財産にどの税率が適用されるか」まで左右する話なのです。

個人名義の土地は「時価の8割」で評価される

社長個人が土地を持っている場合、相続税を計算するときの評価額は、路線価をベースに算出され、実勢の時価に対して目安でおよそ8割程度になります。

一見、時価より低く評価されるので有利に思えるかもしれません。ですが、これはあくまで「評価額が下がる」だけの話で、その土地が個人の相続財産としてカウントされる事実は変わりません。

本社が建つ一等地や、資産価値の高い工場用地であれば、8割評価であっても金額そのものが大きく、相続税額に直結します。

「法人名義にすれば安心」でもない

では不動産を会社名義にしておけば相続税と無縁かというと、そう単純でもありません。

社長がその会社の株式を100%(またはそれに近い割合)保有している場合、相続税の対象は「不動産」から「株式」に姿を変えるだけです。会社が優良な不動産を持っていれば持っているほど、その会社の株価は上がり、結果として自社株の相続税評価額も上がります。

実際、含み益のある不動産を法人が持っていると、純資産価額方式の株価評価に反映され、想像以上に株価が跳ね上がっているケースは珍しくありません。

つまり「個人か法人か」は、相続税がかかる対象を移し替えているだけで、消してくれるわけではないという理解が出発点になります。

それでも法人名義に一定の合理性がある理由

とはいえ、法人名義には別の角度からのメリットがあります。法人の実効税率は、所得800万円を超える部分について概ね34%前後で頭打ちになります。

個人の所得税・住民税は最高で55%近くまで上がるのに対し、法人はそこで税率が固定される。不動産から得られる賃料収入などを法人に集約しておけば、高い税率区分に達しにくく、結果として手元に残るキャッシュの効率が変わってきます。

また、法人であれば役員報酬や退職金の設計、生命保険の活用など、相続税対策の選択肢が個人よりも広がるという副次的な利点もあります。

判断の分かれ目はどこにあるか

結局のところ、名義の選択は「相続税評価額を今すぐ下げる」ためというより、「将来にわたってどちらの税率構造で資産を積み上げていくか」という設計の話です。

以下のような点を確認しておくと、判断がしやすくなります。

  • その不動産は含み益が大きいか、これから値上がりが見込めるか
  • 賃料収入など継続的なキャッシュフローが発生するか
  • 自社株の評価額が既にどの程度の水準にあるか
  • 後継者へどのタイミングでどう引き継ぐ想定か

特に自社株の評価額を一度も確認したことがない社長は少なくありません。不動産の名義を検討する前に、まず現状の株価評価を把握しておくことが出発点になります。

もし本社や工場の土地がまだ個人名義のままなら、一度で構わないので税理士に相続税評価のシミュレーションを依頼してみることをおすすめします。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。