先日、長年お付き合いのある製造業の社長からこんな連絡をもらいました。
「毎年、子供たちに110万円ずつ贈与してきたんだけど、今年から意味がなくなるって本当?」
結論から言うと、「意味がなくなる」わけではありません。ただ、従来の計算では通用しない場面が確実に増えます。2024年から施行された相続税の改正によって、生前贈与の節税戦略は大きな転換期を迎えています。
加算期間が3年から7年へ。何がどう変わったのか
これまでの制度では、亡くなる前3年以内の贈与は相続財産に加算される、というルールがありました。裏を返せば、それ以前の贈与は相続税の計算に含まれないため、「早めに贈与しておけば節税になる」という戦略が機能していたわけです。
ところが2024年1月から、この加算期間が3年から7年に延長されました。
たとえば、毎年子供に110万円ずつ贈与していた社長がいるとします。以前なら、死亡前3年分の合計330万円が加算対象でした。新ルールでは、死亡前7年分の合計770万円が課税対象に引き込まれます。加算額は2倍以上です。
「たかが770万円」と感じる方もいるかもしれませんが、相続税率が40〜55%に達する富裕層にとっては、それだけで数百万円単位の税負担増になります。
自社株を持つ社長ほど影響が深刻な理由
特にオーナー社長にとって、この改正の影響は重くのしかかります。
自社株の評価額が高い会社では、相続時に莫大な税負担が発生することがあります。そのため、生前に株を少しずつ後継者や子供に移転する「自社株の暦年贈与」は、典型的な相続対策でした。しかし7年ルールが適用されると、計画的に進めてきた贈与の一部が相続財産に舞い戻ってくることになります。
年間110万円の非課税枠で贈与を10年続けてきた場合、以前は7年分以上が「移転完了」でした。新ルールでは直近7年分が引き戻しの対象になるため、最初の3年分しか「確定した節税」にならないのです。
長期計画で積み上げてきた贈与の実効性が、後半の7年分に限って大きく損なわれることになります。
「4年目以降」には100万円の緩和措置がある
ただし、制度に少し救済措置があります。
加算対象となる7年分のうち、死亡前3年超4年以降の贈与については、合計100万円を控除できます。全額が丸ごと課税されるわけではない点は覚えておいてください。
とはいえ、この控除額はそれほど大きくありません。贈与額が大きいオーナー社長ほど、この緩和だけでは対応しきれないのが実情です。
今すぐ見直すべき3つの視点
実際に何をすればよいか。大きく3つの視点で整理してみます。
まず、贈与スケジュールの再シミュレーションです。従来3年分で計算していた相続税シミュレーションを、7年分ベースに作り直す必要があります。「何年後に相続が発生するか」は分かりませんが、早期に贈与を開始するほど有利な構図は変わりません。先手を打つことが今まで以上に重要です。
次に、相続時精算課税制度との組み合わせです。2023年の改正で、相続時精算課税にも年間110万円の基礎控除が設けられました。暦年贈与一辺倒ではなく、両制度を状況に応じて使い分ける設計が有効な場合があります。
最後に、自社株の評価引き下げ対策との連動です。株価を合法的に下げた上で贈与する、持株会社スキームを活用するなど、贈与単体ではなく会社の資本政策全体として見直す視点が欠かせません。
改正は「過去の贈与」にも段階的に影響する
注意が必要なのは、この改正が段階的に適用される点です。2024年1月1日以降の贈与から新ルールが適用されるため、今後しばらくは「旧ルール(3年)」と「新ルール(7年)」の贈与が混在する複雑な移行期が続きます。
自分の贈与がどちらの期間に属するのか、専門家でないと判断が難しいケースも出てきます。「まだ大丈夫だろう」と放置していると、相続発生時に想定外の請求書が届くことになります。
今のうちに過去の贈与記録を整理し、現行の相続計画を税理士と一緒に点検しておくことを強くおすすめします。生前贈与は「始めた日」が早ければ早いほど有利です。7年のカウントダウンは、今日から始まっています。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。