「相続って、まだ先の話だと思ってたんですよね」

先日、ある製造業の社長からこんな言葉を聞きました。57歳、純資産は自社株と不動産を合わせて1億2,000万円ほどある方です。顧問税理士に試算をしてもらって初めて、「これは今すぐ動かないといけない」と青ざめたそうです。

この「まだ先の話」という感覚が、実は一番危ない。今日はその理由を、数字を交えて話しておきます。

純資産1億円の社長は、ほぼ確実に相続税がかかる

相続税には「基礎控除」があります。計算式は、3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数。お子さんが2人いれば、4,200万円が控除されます。

純資産が1億円なら、控除を引いた5,800万円に相続税がかかる計算です。この規模になると、税率は30〜45%のゾーンに入ります。財産が大きくなるほど実効税率は上がり、最高で55%に達することもある。

「うちはそんなに資産ないよ」と思っている方も、自社株・不動産・預貯金を合算すると、意外とラインを超えているケースが多いんです。まず自分の財産を棚卸しすることが第一歩です。

暦年贈与は「早く始めた人勝ち」の制度

相続対策の基本中の基本が、暦年贈与です。1年間に110万円まで、贈与税ゼロで財産を子や孫に移せる制度です。毎年コツコツ続けることで、相続財産を着実に圧縮していきます。

たとえば年110万円を20年間続ければ、2,200万円が相続財産から外れます。子が受け取った資金を運用すれば、その運用益も相続財産の外に出ていく。時間を味方にした節税です。

ただし、ここで重要な改正があります。

2024年から「7年ルール」に変わった

従来は「亡くなる前3年間の贈与は相続財産に加算する」というルールでした。それが2024年1月から、7年間に延長されました。

これが何を意味するか、具体的に考えてみましょう。

60歳から暦年贈与を始めたとします。毎年110万円を贈与し続けたとして、67歳で亡くなった場合、7年分770万円がそのまま相続財産に「戻されます」。贈与した意味がなくなるんです。

60歳スタートの場合、実質的に対策が「効き始める」のは67歳以降ということになります。67歳から有効な贈与が積み上がっていく計算です。

50歳から始めると、何が変わるか

一方、50歳から始めれば話は変わります。57歳以降の贈与はすべて有効です。10年間で1,100万円、20年間では2,200万円が相続財産から外れます。

さらに、時間の余裕があれば暦年贈与以外の手も打てます。生命保険の非課税枠(500万円 × 法定相続人の数)の活用、法人を使った財産の移転、信託の設定など、選択肢が広がります。どれも「じっくり設計して積み上げる」ものばかりです。

60歳を過ぎてから「さあ相続対策を」となっても、使える手段が限られてくる。残された時間が短いほど、対策の効果は小さくなります。

「いつかやろう」が一番高くつく

相続税の怖いところは、かかるかどうかが死後にならないとわからない点ではありません。対策できる時間が静かに失われていくことです。

7年という長い加算期間が課せられた今、純資産が5,000万円を超えているなら、年齢に関係なく「今すぐ」が答えです。財産の棚卸しをして、相続税の試算を出してもらうだけでも、景色が変わります。

まだ相続対策に着手していないなら、今期中に一度、専門家と向き合う時間を作ってみてください。「始めた」という事実が、7年後の大きな差になります。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。