先日、製造業を営む社長からこんな相談を受けました。「会社の株を全部息子に譲りたいんですが、税金でいくら持っていかれるか計算したら青くなりました」。

非上場企業の株式は、上場株式のように市場で売買されているわけではないのに、相続税や贈与税の計算上はきちんと評価額がつきます。会社を何十年もかけて大きくしてきた社長ほど、この評価額は驚くほど高くなりがちです。

非上場株式100%が課税対象になる制度

実はこの負担を実質ゼロに近づけられる制度があります。「特例事業承継税制」と呼ばれるもので、後継者が先代から株式を受け継ぐ際の贈与税・相続税を、一定の要件を満たせば納税猶予、最終的には免除まで持っていける仕組みです。

通常の一般措置では対象となる株式が発行済み株式の3分の2までで、猶予される税額も80%止まりでした。ところが特例措置では、対象が株式の100%に拡大され、猶予割合も100%になります。つまり要件さえ満たせば、承継時点での納税負担を理論上ゼロにできるということです。

年商5億円クラスの製造業で、非上場株式の評価額が3億円ということも珍しくありません。この場合、通常の相続税率をそのまま当てはめると、他の相続財産の状況にもよりますが、最大税率は55%です。特例を使わなければ、後継者は自社株を受け継いだだけで1億円を超える現金を用意しなければならない、という場面が現実に起こります。

期限は2027年12月

この特例、実は時限措置です。適用を受けるためには、原則として2027年12月31日までに贈与または相続によって株式を実際に移転させる必要があります。

さらに見落とされがちなのが、その手前にある「特例承継計画」の提出期限です。この計画をあらかじめ都道府県に提出しておかないと、そもそも特例の土俵に上がれません。計画には後継者の氏名や承継の見込み時期、認定経営革新等支援機関の所見などを記載する必要があり、準備には数か月かかることも珍しくありません。

期限を過ぎてしまうとどうなるか。特例措置は適用できなくなり、一般措置(対象2/3・猶予80%)を使うか、あるいは何の優遇もない通常課税で贈与税・相続税を負担することになります。先ほどの例で言えば、最大55%の税率がそのまま襲いかかってくるわけです。

焦って進めるのが一番危ない

ここで注意したいのは、「期限が近いから」と慌てて手続きを進めることです。特例事業承継税制は要件が細かく、後継者の役員就任時期や議決権の状況、事業継続要件など、事前に整えておくべき条件が多岐にわたります。

認定支援機関との調整や都道府県への申請には一定の時間がかかりますし、途中で要件を満たせなくなると猶予が取り消され、猶予されていた税額に利子税まで加算されて一括請求される、というケースもあります。制度の恩恵が大きい分、設計を誤ったときの反動も大きいのがこの特例の特徴です。

株価が今後さらに上がりそうな会社ほど、早めに動くメリットは大きくなります。逆に業績や後継者体制がまだ固まっていない会社は、無理に期限に合わせるより、他の承継スキームと比較検討する時間を確保したほうが結果的に安全なこともあります。

もし自社株の評価額をまだ正確に把握していないなら、まずはそこから始めてみてください。数字を知ることが、期限までに何をすべきかを判断する最初の一歩になります。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。