先日、製造業を営む後継社長からこんな相談を受けました。「来期、老朽化した加工機を入れ替えたいんですが、税金面で何か使える制度はありますか」。
答えから言うと、あります。しかも「早く経費にするか」「税金そのものを減らすか」を自分で選べる制度です。ただし、使うには順番があります。買ってから慌てて調べても、間に合わないケースがほとんどです。
特別償却か税額控除か、選べる制度
中小企業向けの設備投資優遇には、中小企業経営強化税制と呼ばれる制度があります。対象の設備を取得すると、即時償却(取得価額の全額をその年度に経費にできる)か、税額控除(法人税額から一定割合を直接差し引ける)のどちらかを選択できます。
即時償却は、その期の利益を大きく圧縮したいときに向いています。設備投資で一時的に資金が出ていくタイミングに合わせて、税負担も一気に軽くしたい場合です。
一方の税額控除は、資本金の額に応じて7%または10%を法人税額から直接控除できる仕組みです。すでに利益が出ていて償却負けの心配が少ない会社であれば、こちらのほうが有利になることも珍しくありません。
どちらが得かは、その期の利益水準や翌期以降の見通しによって変わります。単純に「即時償却のほうがお得そう」と飛びつく前に、数年単位のシミュレーションをしておくのが安全です。
対象になる設備には細かい類型がある
この制度が少しややこしいのは、対象設備がいくつかの類型に分かれている点です。生産性を一定以上高める設備、収益力の強化に資する設備、デジタル化に資する設備、そして事業承継やM&Aを通じた経営資源の集約化に資する設備など、それぞれ要件が異なります。
機械装置であれば一定額以上、工具や器具備品、建物附属設備であればまた別の金額基準が設けられており、単に「新しい機械を買った」というだけでは対象になりません。
さらに、設備そのものの性能要件に加えて、生産性が年平均1%以上向上する見込みであることなど、数値での証明が求められる類型もあります。この確認作業を後回しにして先に発注してしまうと、あとから制度の対象外だったと分かって取り返しがつかないことがあります。
取得前に「経営力向上計画」の認定がいる
もう一つ見落とされがちなのが、手続きの順番です。この制度を使うには、原則として設備を取得する前に、経営力向上計画を策定して主務大臣の認定を受けておく必要があります。
認定には数週間かかることもあり、「発注してから慌てて申請する」というやり方では間に合いません。設備メーカーから証明書を取り寄せる必要がある類型もあるため、導入を検討し始めた段階で、対象になりそうか、どの類型に当てはまりそうかを税理士や認定支援機関に相談しておくのが現実的な進め方です。
決算期末が近づいてから駆け込みで設備投資を検討する社長は多いのですが、この制度に関しては期末の駆け込みが一番危ういパターンです。認定のタイムラグを考えると、少なくとも導入予定の2〜3か月前には動き出したいところです。
制度は複数あるので比較も必要
似たような名前の制度に、中小企業投資促進税制もあります。こちらは認定手続きが不要で対象範囲も広い一方、控除率や即時償却の可否といった条件面では経営強化税制のほうが有利な場合が多いのが実情です。
どちらを使うべきかは、導入する設備の種類や金額、会社の規模によって変わってきます。この判断を自己流で進めると、本来使えたはずの有利な制度を見送ってしまうこともあるため、複数の制度を並べて比較検討する視点を持っておくとよいでしょう。
設備投資を計画しているなら、発注書にサインする前に、一度その設備がどの優遇制度の対象になりそうか確認しておくことをおすすめします。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。